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プロローグ 見送り
プロローグ 見送り
「お義父ちゃん、行って来ます!」と、おかっぱ頭の少女が、玄関を駆け出した。
少し後れて、柔和な顔立ちの中年男性も、玄関口へ出た。そして、逢魔が刻の校庭を駆け抜ける少女の後ろ姿を見送った。だが、妙な胸騒ぎを覚えた。最近、兵隊崩れの不審者に、子供が、神隠しに遭う噂話を耳にしていたからだ。そして、「無事に帰って来てくれれば良いんだが…」と、中年男性は、呟いた。約一年前の黄文八〇年六月一四日の靄島空襲で、妻と娘を亡くしており、養子縁組をした逗子まで失うのは、堪えられないからだ。間も無く、逗子の姿が見えなくなると、踵を返した。宿直室で、若い男女の“あ〜れ〜”防止の為、校内の見回りの仕事に就かなければならないからだ。後ろ髪を引かれる思いで、校舎へ入るのだった。