5月24日 練習試合(白峰工業高校戦)
練習禁止になって今日が3日目。本日は、聖徳高校のグラウンドで、白峰工業高校との練習試合が行われていた。もちろん、俺は試合に出場することができない。今日は、永谷と一緒にバックネット裏の掃除をしていた。俺がスタメンから抜けたこともあり、守備位置や打順も大幅に変更されていた。中でも、驚いたのが1年生の田中だろう。昨日の健太郎の話では、2日前からバッティング練習とシートノックに参加しているらしい。
〈聖徳高校スタメン〉
1番 八幡修也 セカンド 3年生
2番 田中優聖 ショート 1年生
3番 橋本涼太 キャッチャー 3年生
4番 川中衛 ファースト 3年生
5番 佐伯浩二 サード 3年生
6番 早川直人 レフト 2年生
7番 橘怜衣 ライト 3年生
8番 小川純希 センター 2年生
9番 竹田衣玖 ピッチャー 2年生
〈聖徳高校ベンチ〉
定本健太郎 3年生
田畑誠 3年生
山田悠太 3年生
飯田徹 3年生
塩尻郷 3年生
葛西弘毅 3年生
向井雅 2年生
安田智久 2年生
山田隼人 2年生
柳田龍 2年生
奥本学 2年生
柴田優雅 2年生
〈ベンチ外〉
山里侑大 3年生
永谷満 3年生
道和高校で打ちこまれた橘は、ライトでの出場だった。注目は、竹田がどれくらい白峰工業打線に通用するかだった。しかし、3回もたずに、マウンドを降りてしまうかたちになってしまった。白峰工業高校の4番梅澤には、2打席連続でホームランを打つなど、野球のレベルが明らかに違っていた。竹田の後を、葛西、八幡とつなぐも、白峰工業打線を止めることができず、7回まで12失点をしてしまった。
一方の打線も6回までノーヒットと完全になすすべがなかった。特に、白峰工業高校の投手である三好の速いストレートとスローカーブに翻弄されており、毎回の10奪三振をしてしまっていた。
そして、12対0で迎えた8回。聖徳高校は、小川の代打で健太郎が打席にたった。今日も気合いが入った凛々しい表情をしていた。俺は、健太郎の打席をホウキを持ちながら見ていた。
白峰工業高校の三好は、初球ストレートを投げ込んだ。健太郎は、見逃した。「ボール」。健太郎は、打席を外して、1回、2回とスイングをする。そして、再び打席に戻った。
三好は、2球目もストレートを投げ込んだ。1球目同様、健太郎は、ボールを降らなかった。「ボール」。俺は、ホウキを置いて完全に試合を見ていた。
そして、3球目。三好は、またしてもストレートを投げ込んだ。健太郎は、綺麗なバッティングフォームから、バントの構えに代わった。そして、ボールはバットに当たって三塁前に転がった。
健太郎、走れ。走れ。胸にとどめていた声が漏れそうになる。健太郎は、一塁まで走る。三塁前に転がったボールを、三塁手が捕り、一塁へ送球する。俺は、前のめりになりながら、審判の判定に目を向ける。
「セーフ」。グラウンド上の聖徳高校の選手たちの大きな声が聞こえる。今までの健太郎の努力を近くで見てきただけに本当に嬉しかった。"このままでは、終われない"。健太郎の必死な姿をみて武者震いをする俺だった。