7月11日 最後
打席に立った俺は、マウンド上のマシンに釘付けだった。いつもより速い球で設定しているから、ぼーっとしてると打てなくなる。マシンのアームが唸りを上げる。それと同時に、俺は足を少しひき、タイミングをとる。白いボールがシューという音を立てて放出されるのがわかった。いつもよりボールは速いが、打てる。俺は、そう感じた。俺の出したバットにボールは当たり、大きな金属音が鳴り響いた。ボールは勢いよくレフト方向へと飛んでいく。レフトにいた橋本と永谷がボールを追いかけているみたいだ。
夏の大会の初戦までもうまもなくと迫っていた。昨日に続き、俺たちは、今日もバッティング練習のメニューが組み込まれていた。守備に時間もさきたいが、守備はどちらかというと投手のでき次第と考えだった。明日は、運命のベンチ入りメンバーが決定する。順当にいけば、大きな問題はなさそうに決まるだろうけど、波乱があるとすれば、セカンドと外野の3枠。俺も含めて、必ずしも一桁の背番号がもらえるかはわからない。明日でベンチ入りメンバーも全て決まる。例年、ベンチ外の選手は、この時期から練習できなくなるというのがあった。それが適用されるかは知らないけど、3年の中でベンチ外が出たら今日が最後の練習となる。それは、避けたかった。
2年、1年からどれだけの選手がベンチに入ってくるかがポイントだろうな。おそらく、2年の安田、小川。1年の田中は必ず入ってくる。そこに、キャッチャーが少ないという事情から2年の向井、次期キャプテン候補の小山も入れたいところだろう。この大所帯で練習ができるのが最後だと思うと、どこか考え深くなってしまうのだった。そんなことを考えていると二球目がマシンから放たれた。俺が打った打球は、外野の安田の方へと飛んでいく。フェンス際へと追っかける安田。最後は、スライディングキャッチを試みたが、ボールは、グローブの中へと吸い込まれることはなかった。ボールをとれなかった安田に対して、みんな声をあげる。
三球目、四球目はわずかに外れており、ボールを振らなかった。勢いよくボールが俺の目の前を通り過ぎていった。マシンは、さっきよりもさらに速いボールのように感じたが、俺は動じなかった。マシンに集中し、完璧なタイミングを測っている。打撃ゲージの交代の合図とともに、マシンに向かって一礼した。これは、感謝をもたないといけないという意味合いだったのだ。




