7月2日 動画
グローブをはめながら、健太郎が見ていた動画を見ていた。この動画を見るのは二回目だが、健太郎みたいに見返す理由は見つからなかった。
俺 「どうだ?」
健太郎「んー。打てそうにないな」
昨日、監督が渡してくれた動画を、健太郎は見返していた。こういうところが、健太郎のすごいところだ。
俺 「弱気だな」
健太郎「あんまり、ああいうタイプのピッチャー得意じゃないんだよな」
健太郎が言っているのは、おそらく右腕の山田のことだろう。
俺 「たしかに、そうだな」
健太郎「湯浅ほど速くもないしな」
湯浅は、この前戦った淮南高校のエースだ。
俺 「きたボール打つ。シンプルに考えるしかないな」
その通りだ。
健太郎「そうだな。侑大は、打てそうなのかよ?」
俺 「どうだろうな?チームが勝てばいいかな」
自分が打つかどうかは頭にはなかった。チームが勝てばまた試合をやれる。でも、負けたらその瞬間、終わってしまう。
健太郎「大人だなぁ」
俺 「それは、そうだな」
口ではああ言ってるけど、チームの勝ちを願っているのは健太郎の方かもしれない。
健太郎「でも、点が入らないと勝てないからな」
俺 「そこなんだよな。橘が調子良く無失点っていう可能性も少ないしな」
その通りだ。橘が調子良くて無失点に抑えられたらそれがいいけど。
健太郎「怒られるぞ、橘に」
俺 「ハハハハ」
俺たちは笑い合った。
健太郎「橘から継投もあるのかな?」
俺 「どうだろうな?調子がよければって感じだろうな」
橘から違うピッチャーに代わっている。つまり、俺たちはピンチだということだ。橘に代わって投げる可能性のあるピッチャーは、竹田、葛西、飯田、田中の4人だ。しかし、どのピッチャーも決め手に欠ける。
健太郎「初戦っていつ?」
俺 「えっーとな、、、、、、。」
健太郎「‥‥‥」
いつだっけな。あっ。
俺 「7月25日だ」
健太郎「じゃあ、後23日後かぁ」
23日後がどんなもんなのか。想像しにくい。
俺 「あんまイメージつかねぇな」
健太郎「たしかにな」
俺は、はめていたグローブをとった。
俺 「それが早いのか遅いのか」
健太郎「わかんないな」
けど、俺たちは、1日でも長く野球をする。それだけだ。その想いは、みんな同じだと思っていた。




