6月28日 緑山直己
今日も、夕暮れ時のグラウンドでボールを打っていた。いわゆるフリーバッティングというやつだ。弱々しい照明が頼りなく明かりを灯している。他の部活動は、どこもしていない。俺たちの背中には深い陰が落ち、野球部だけが声を出し合っていた。
しかし、その静寂もつかの間。突如、やってきたのは、緑山だった。俺たちの1つ代の上の先輩で、エースだった。昨年の夏の大会は、2回戦の純新学園に0対2というロースコアで負けてしまったが、とてもいい試合だった。名門校に対しても、緑山は、全く怯まなかった。その緑山は、まだ大学で野球を続けていたらしい。そして、その緑山がマウンドに立った。
懐かしい投球に、俺たちもワクワクが止まらなかった。投球する緑山に視線が集中する。さっきまでのフリーバッティングからケースバッティングへと変わった様子だった。急遽、監督から呼ばれ、俺が一番に打席に入ることになった。
ホームベースに立った俺は、緊張の中にも熱く燃える気持ちを抱いていた。ずっと、この人から対戦したいと思っていたからだ。昨年は、紅白戦の時に同じチームだったということもあり、バッターボックスに立つ機会はなかったから、ありがたかった。
俺は、お気に入りである黒のバットを握りしめ、緑山が投げるボールを待っていた。緑山は、サイドハンド気味から投げてくる。インコースだ。俺は、腰をそらして、ボールを見たが、少しスライドしてストライクゾーンに入ってきたのだった。
そして、2球目。今度は、スライダーだ。シャーという緑山の声と共に、ボールが送り出された。俺は素早く反応し、バットを振った。少し鈍い打球音が響く。打球は、ファースト方向はとファールになってしまった。あっという間に追い込まれてしまう。俺は、バットを二回振り、再び打席に入った。打席から見る緑山は、自信満々で俺を睨むかのような鋭い視線だった。
運命の3球目。ボールが投げられた瞬間、打席に立っていた俺は絶妙なタイミングでバットを振り下ろした。バットとボールがぶつかり合うと、打球は真っ直ぐに天高く舞い上がっていく。しかし、ボールは、レフト正面の打球となってしまった。緑山からは、ナイスバッティング!!と声をかけられた。ほぼ、ど真ん中に打ってくださいと言わんばかりのストレートだったが、レフトの頭上を越えることはなかった。俺は、諦めず、一塁ベースのところまで走ったが、折り返して帰ってきたのだった。




