6月27日 バント練習
今日は、バッティング練習ではなくバント練習が中心のメニューだった。グラウンドの一角で、順番にマシンのボールをバントしていく。俺たちは、一列に並び、バントの決まり具合によって声をかけていく。健太郎、永谷、八幡、俺、橘と続いていく。
二つ前の健太郎が上手にバントを決め、選手たちから大きな声が聞こえてくる。白球が、バットと接触するたび、綺麗な金属音が鳴り響き、選手たちが動き出す。健太郎の後に入った永谷のバントは、キャッチャーフライトなり、大きな声が飛び交った。
そして、監督が前に出てきて、厳しい言葉を投げかけた。おそらく、監督は、永谷自身の戒めと励ましの意味を持ちあわせて声をかけたのだろうと思っていた。グラウンド上には、これまでにない集中力が出てきていた。八幡は、一球できっちり送りバントを決め、俺はバッターボックスに向かった。最後の大会だからこそ、送りバントやスクイズなどで試合の流れを左右する時がくる。だからこそ、この練習には意味があるのだ。
バッターボックスに入った俺は、マシンにボールを入れる山口を見つめた。最初からバントの構えをしていた俺は、山口がマシンにボールを入れた。横から見ている感じだと、これまでより速く感じる。あまりの速さに、構えていたバットを引いた。少し高かったことも功を奏した。この速さならバットの芯をもつ右手にいつも以上に力をいれる。
そして、二球目を待った。バットの真ん中付近に当たったこともあり、ファースト方向へとゆっくり転がっていく。待っている選手からも「ナイスバント」と大きな声が聞こえてくる。こうした一つ一つのバントが、夏の大会を左右していく。俺たちは、丁寧にボールを転がしていく。この後も、硬いグラウンドの上で繰り返されていくバントの音。それはまるで、誰かに追われる中を走る心の鼓動であるかのようだった。
蒸し暑い中、風が吹き抜けていく。夕闇の訪れとともに各々疲労感を感じてきたみたいだった。それでも、最後の優聖までがきっちりバントを決めたのだった。最後のバントが終わると、監督や俺たちが大きな拍手をしたのだった。そして、エースの橘や橋本たちは、満足げな表情だった。そうした二人の選手を見るとこれまで以上に、俺たち選手たちも身体をほぐれ、テンションが上がっていくのであった。そして、監督は大きな声を出し、バント練習からノックに切り替わろうとしていた。




