5月20日 セカンド争い
今日は、朝練習の日だった。俺は7時30分くらいに到着し、健太郎とティーバッティングを行っていた。朝練習は、してもしなくてもよいというのが、監督の方針。
俺も朝起きるのは得意ではないし、朝練はしたくなかった。しかし、健太郎から誘われたら断れなかった。俺自身は、朝練をしなくても、レギュラーはとれるし、そこそ打てるだろうと思っていた。でも、健太郎は、俺と一緒ではない。同じポジションに、3年生の飯田、2年生の奥本、1年生の優聖が控えており、明確なレギュラーが決まっていない。
最後の夏の大会では、健太郎と一緒に出たい。そのためには、健太郎がレギュラーを掴まなければならない。健太郎の課題は、打撃と守備の両方だ。打撃は、キレイなバッティングフォームをしているが、なかなかボールが当たらない。守備では、MAX135kmを投げるほどの肩があるが、捕球が苦手。この両方を改善しないとレギュラーの道は険しい。
ただ、3年生の飯田、2年生の奥本ともにレギュラーの決め手には欠けている状況で、健太郎とたいした差はなかった。1番レギュラーに近いのは、1年生の優聖だった。5月17日に行われる道和高校との練習試合に1年生唯一の出場となった。8回表に、代打で登場した。これまで、打撃や守備を行う機会は、ほとんどなかったが、道和高校の投手の初球をいきなり打ったのだ。結果は、ライトライナーに終わったが、彼の実力は目を見張るものがあった。代打の後は、ショートの守備についた。一度の守備機会しかなかったが、無難にこなしていた。たった一試合だったが、江陵高校や道和高校がスカウトをしたり、監督がいきなり試合で使ってみたいのもわかる気がした。
健太郎のティーバッティングが終わると、俺は、ホームベースからバックネットに向かって軽くバッティング練習を始めた。バッティングピッチャーは、健太郎。健太郎の投げ方は、本当にキレイでいいボールがくる。5割程度のボールということもあり、ちょうど打ち返しやすかった。俺も徐々にスイングスピードを速くする。速くするごとにボールがネットに当たるおとも激しくなる。
「いいねぇー」。健太郎がいい当たりの時に声をかけてくれる。俺もその声につられて、思いっきり強くふる。そして、20球目を打ち終えた頃、上から声が聞こえてきた。声を出したのは、橋本だった。橋本は、チームの中でも最も練習をしたくない生徒だった。橋本の声に返事をしながら、再びバットを振り始めた。