6月17日 時間
宝来は、楽しそうに笑っていた。あのPK戦以来、ちゃんと来るようになってきていた。
宝来「野球部って、"聖淮戦"何時から?」
俺 「えーっと、確か13時とかやったと思う」
同時間帯に競技が重ならないようにしてるみたいだった。
宝来「昼からかぁー」
俺 「サッカーは?」
宝来「俺らは、11時から」
11時台かぁ。
俺 「11時からやったら、俺ら見れるわ」
宝来「俺らは終わってからやな」
宝来がこれだけやる気になってるのを見るのは初めてだ。
俺 「てか、お前試合行くの?」
宝来「試合は行くよ」
俺 「行くんやな。ハハハ」
宝来は、どこか気まずそうにしていた。
宝来「練習は嫌いやし、アイツらも好きじゃないけど、試合は好きやからな」
これが、宝来独自の理論だ。
俺 「なんや、それ」
宝来「負けられないからな」
負けられない。宝来らしい。
俺 「なんか気になる奴でもおる?」
宝来「ああ。淮南のエース」
淮南高校にそんな奴がいるのか。
俺 「なんていう奴?」
宝来「藤森春助」
たしか、サッカー部の辰巳から聞いたことがある名前だった。
俺 「そいつ、聞いたことある」
宝来「へぇー、そうなんだ」
俺 「どこ中?」
宝来「海美」
海美は、中高一貫校だった。
俺 「海美から、わざわざ淮南きた?」
宝来「ああ。アホやろ?」
海美高校は、ここら辺でも偏差値が高い高校になる。そこに行かずにわざわざ淮南にくるなんてな。
俺 「そのまま高校いけるのにな」
宝来「ああ」
俺 「何がすごい?」
宝来は、腕組みをしながら答えた。
宝来「沢田以外で、唯一凄いと思った奴や」
俺 「へぇー。お前も凄いと思うことあるんだな」
俺の中での宝来は、やんちゃで自信家だが結果は出してくる。そんなイメージだ。
宝来「まぁ、そこまでやけどな」
俺 「どっちや」
宝来は、あまのじゃくな部分も多い。
宝来「それより、お前はどうなの?」
俺 「なにが?」
宝来「試合出れそう?」
それだ。俺は、人の心配できる立場じゃなかった。二日前の練習試合の残像が残っていた。
俺 「いや、わからんな」
宝来「まぁ、頑張れよ」
俺の肩に手を置いて、ゆっくり立ち上がった。




