6月9日 4本目
やはり、今日も宝来は来なかった。もともと、学校に執着していなかったが、"聖淮戦"も近いだけに、心配になってきた。ポッカリと空いた後ろの席を眺めながら、考えていた。
ー6月5日ー
沢田は、辰巳や富山のところで何かを話していた。俺たちは、宝来を見つめていた。PK戦は、運命の4本目にさしかかっていた。キッカーの唐沢を宝来が止めれば、宝来の勝利が確定する。唐沢が決めれば、宝来のキッカーへとつなぎをのこせる。
4度目のボールセット。1本目と同じようにどこか、緊張感が見ている俺たちにも伝わってくる。視線こそ、キーパーの宝来を見ているが、どこか視点が定まっている様子だった。中沢を笛を鳴らし、手を挙げた。
1本目と同じく、小刻みに勢いよく走り出す。唐沢の右脚から蹴り出されたボールは、ど真ん中に飛んでいく。一瞬、左によった宝来だったが、すぐに戻る。あのボールだったら間に合う。必死に右手を出した。太い手袋にあたり、ボールは逸れていってしまった。
永谷「決まったな」
俺 「そうだな」
仲のいい宝来が勝利と終わったが、どこか喜ばない自分がいた。なんでだろう?なぜ、自分がこの感情なのかよく理解できなかった。
永谷「終わってみりゃあ、宝来の圧勝だったな」
俺 「んー、どうかな」
永谷「なんだよ、納得いってないの?」
宝来に勝ったけど、この勝負に何か意味はあったのだろうか?
俺 「わかんないけど、なんかね」
永谷「なんでや」
沢田は、中沢のところへ行って何やら話をしていた。
橋本「そろそろ帰るわ」
橘 「そうやな。永谷、山里行こうぜ」
俺は、このまま、ここを去ることができなかった。
俺 「悪りぃ、もうちょっと見とくわ」
橘 「あ、あぁ。わかった。じゃあ、あとでな」
バットを持ちながら、橋本と橘は帰っていった。
俺 「永谷は、戻らんの?」
永谷「ああ。この後、なんか起こる気がしてな?」
俺 「どういうこと?」
後ろで練習を始めていた健太郎を見ながら、質問をした。
永谷「あのタイミングで沢田がコートの中、入っていったっていうことは何かあってじゃないかなって」
俺も同じことを考えていた。コート上では、悔しがる唐沢と勝っても何も思わずリフティングをしている宝来がいた。すると、宝来のもとへ沢田が歩みよってきた。"まじか?"。ここの中でそう呟いている自分がいた。




