6月1日 定本健太郎
夏の大会まで、残り2ヶ月。まずは、"聖淮戦"を目標にして、俺たちは練習に励んでいた。
俺 「健太郎、緩めで投げて」
健太郎「おけぇ」
健太郎は、グローブを体の前に出し、右手でボールを握った。そのまま、左足をひく。バックネット裏からは、橘と橋本が声をかけてきた。健太郎の姿は、昔とそっくりだ。小学校の時は、とても背が低く、塁間にボールを投げるのがいっぱいだったが、今は、その面影は、全く見られない。
左足を上げ、右腕を伸ばした。俺は、左足を少し引いてタイミングをはかる。健太郎が投げてきたボールは、ちょうど打ちやすい高さだった。金属音と同時にボールは、陸上部付近まで飛んで行った。
健太郎「ナイスバッティン」
俺 「あざす。もう一本」
健太郎は、声を出し、投げてきた。ホントに健太郎の投げる球は打ちやすい。本気で投げるとなかなかいいタイミングで打てるが、バッティングピッチャーの時は、打ちごろのスピードだ。最後もいい形でスイングすることができた。練習明けからは、バッティングの調子もいいみたいだ。
健太郎「あがるか?」
俺 「おけぇ」
投げていた健太郎は、ボールを集め出した。
健太郎「今日、調子いいんちゃん?」
俺 「めっちゃいいかわからんけどな」
時刻は、8時過ぎ。少しずつ、太陽の光が出始めていた。
健太郎「ボールが止まって見えるやつ?」
俺 「それそれ、向こうにテツハルさんがおるわ」
お互いを見合わせて、笑った。テツハルとは、打撃の神様のことぁ。
健太郎「今日、単語テストある?」
俺 「あるある」
俺は、後ろにあったボールを拾いながら返事をした。今日は、英語の単語テストがある日だ。
健太郎「今日、範囲広ない?」
俺 「そうなんや。どこなん?」
健太郎「えっ、テスト範囲知らんの?」
驚きながら、こっちを見てくる。正直、似たような単語は塾で覚えてるので、今さら見なくてもある程度、点数は取れるようになっている。
俺 「知らんよ」
健太郎「なんで、それでテスト点数とれるんや」
健太郎には、いつも天才扱いを受ける。自分でも、賢いと思ったことはないが、努力している健太郎よりも点数は、取れている。自分とかは、普通だと思っているけど、野球部の連中からしたら、そうじゃないらしい。




