表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7話 希望

子供の頃兄と一緒に家の屋根に登った。

「にーちゃん、こえーよ。でも、たけー」

「最高だな」

二人の子供がきゃっきゃっと話していた。

「にーちゃん!ゆーひめっちゃきれいやぞ」

「マジだな」

「真っ赤で、まんまるだ」

この後、俺と兄は親に叱られた。

ただ、登ってきた親も夕日は綺麗だったと言い、兄と俺は笑った。

それでさらに反省してないと言われ、怒られた。



タケダの手紙を読んだ俺は、就職活動をすることに決めた。

元々、タケダに将来の話をしてるときに就職活動をすることを考えていたが、講義が忙しくて、先延ばしにしていた。

その辺りが、俺がダメなところだろう。

7月の終わりには、期末試験がある。

俺の場合、卒業のためには後期も単位を取る必要があった。

ただ、前期の単位を全て取れれば、後期はかなり余裕ができる。

就職活動をするなら、前期の期末試験が終わってからになるだろうと思っていた。


しかし、タケダの手紙を読んで気が変わった。

日常は特別ではないのだ。

今を生きないといけないのだ。


50社も受ければ、どこか通るだろう。

そう思っていた。


7月に、とりあえず何社か選考試験を受けることにした。

家には家族の共有PCがあり、そこで気になった企業の説明会を予約しようとした。


どこも満席表示だった。

「説明会に参加することすら難しいのか…」

PCの電源を切った。


そして、とりあえず1Fに行き、冷蔵庫から酒を2本持ち、部屋に戻った。

タケダの手紙を出し、その横に酒を置いた。


「かんぱい!タケダ、俺は…」

その日は説明会の予約が取れない愚痴を言っていた。



なんとか、説明会にエントリーできた俺は、初めての説明会に緊張していた。

人事と思われる社員がパワーポイントを使って、企業理念や業務を説明していた。

俺には企業理念がさっぱりわからなかった。

それがどのように業務に結びついてるのかもわからなかった。

とりあえず、周りの参加者と同様に神妙な顔をするようには努力した。


説明会後に、筆記試験があった。

やばい、何も対策をしていない。


いざ始まると、中学レベルの問題が大量にあるようだった。

難しくはないが、量が多すぎて全部解くのは無理だと思った。

あっという間に時間が経ち、半分手を付けた段階で終わってしまった。


これでは流石に落ちたなと思った。

その後、エントリーシートなるものを書く時間が与えられた。

俺は自分のやりたいこと(漫画とアニメを満足する程度に稼ぎたい)を書いた。


後で気づいたことだが、その会社である必要はないなと思ってしまった。

筆記に続き、エントリーシートもひどい出来で、これは流石に落ちたと思った。


人事らしき人から、後日、合「否」については連絡をするとのことだった。



その後、3日ほど経っても連絡がなかった。

昼休みに、学食で食事をとっているときに、後日とはどのくらいだろうと思っているところに、知らない番号から連絡がきた。


「もしもし、小田林様のお電話でしょうか。〇会社の採用担当☆と申します」


まさか、通ったのかと思った。

どうやら、1次面接の案内の様で、明日の午前10時に会社に来てくれとのことだった。

俺は元気よく返事をした。


まさか、こんなにあっさり面接にいけるとは…

タケダ、俺は就職できるかもしれないと思っていた。



翌日、午前9時頃だった。

緊張した俺は、面接時間1時間前に着いてしまい、会社の近くのカフェで時間を潰していた。


すると、昨日と同じ番号から連絡があった。


電話に出ると、とても申し訳なさそうに話していた。

どうやら、手違いで連絡してしまったらしいとのことだった。



俺は、その日はそのまま帰り、午前中からタケダの手紙を置いて、酒を飲んだ。

「タケダ…、俺さ…」


2~3日程が経ち、最初からうまくいくわけがないと割り切り、次の会社へ説明会の申し込みをしていった。


7月の終わりには期末試験があり、恐らく全て単位は取れたかなと感じた。

6年目になるが、いや、今までの人生で一番頑張ったなと思った。


期末試験が終わり、本格的に就職活動を始めていった。

説明会を申し込み、エントリーシートを書き、1次面接を受ける。


書類選考・筆記試験か1次面接で俺は落ちていた。

2次面接に進めることは一度もなく、大学の後期が始まろうとしていた。


前期の単位は予想通り、全て取れていた。

そのため、後期は単位に余裕ができ、出なくていい講義が多く出たので、その分就職活動に専念することにした。



その頃には、なんとなく2年浪人して、大学も留年していることをどの企業もしつこく聞いてくるため、そこがネックになっていることは分かっていた。

過去は変えれない、どうしたらいいんだと思った。


不採用通知が来るたびに、タケダの手紙を置いて、俺は酒を飲んだ。

ダメだとわかってはいたが、どうにもならなかった。

幸い、俺は酒に弱いため、3~4本で早い時間に酔いつぶれてしまうので、翌日には影響しなかった。



年老いた人事担当者が面接したときだった。


「君さぁ、2年浪人してるわけでしょ?それで留年してるわけだよね?」

「はい」

「親御さんに申し訳ないと思わないの?それだけ恵まれてる環境でさぁ、ちゃんと感謝してる?」

「はい」

「具体的にどんな親孝行してるの?」

「えーとですね、夕刊を取りに行ったりとかです」

「つまり、ロクに親孝行してないわけね。親に感謝できない人はダメだよぉ」

「すみません」

「誰に言ってるの!!?私じゃなくて、君の親に言うんでしょう!!?」

「はい、すみませんでした」

「だからさぁ!」


その後、説教が30分ほど続き、やっと解放された。

部屋を閉めたときに、微かに聞こえた。

「あんなゴミをなんで、面接に呼んだの!??うちにはいらないよぉ。まぁ、説教出来てすっきりしたわ」


その日も、タケダの手紙を置いて、酒を飲んだ。

タケダ、就職することは厳しいんだな。

みんな、乗り越えてるなんてすごいよ。


こうして、10月も同様に不採用を重ねた。

11月に入り、信じられないことに役員面接に1社だけ辿り着いた。

どうやら、その会社は1次の人事面接、2次の役員面接で終わりだった。


役員面接の前日


「タケダぁ、明日が役員面接の日だ!俺やるよ…」

タケダの手紙に対して、俺は酒を飲まず、ずっと話しかけていた。



役員面接

3人の年取った男たちが目の前にいた。

最初に挨拶をし、俺が椅子に座った後、簡単な自己紹介を俺はした。

その後、自己紹介を返されたが、緊張してほとんど理解できなかった。


「緊張しているようですね」

「はい!初めての役員面接なものですから」

「そうか…」

少し、苦い顔を男たちはした。


「早速だけど、今まで何社程2次面接に行きましたか?」

「御社が初めてです」

「なるほど」

中央の男が残念そうに言った。


「どうして、2次面接に行けなかったと思いますか?」

こうして、就職活動や今までの出来事の失敗経験について、なぜ失敗したかを延々と質問され続けた。

志望動機や自己PRは一切聞かれなかった。


俺が話すたびに、残念そうな顔をしていった。

途中から、流石にこれは落ちただろうなと思っていた。


30分程応答が続いた。


「最後に何か質問はありますか?」

「あの…俺は就職できるのでしょうか」

「うちにではないよね。どこか縁がある会社がありますよ」

「そうですか」


こうして、俺の初めての役員面接は不採用に終わった。

なんとなく、自分は社会人になるスタート地点に立ってすらいなかったかなと思った。



その後、気を取り直して、応募し続けたが、どれも書類選考で落ちた。

タケダの手紙を置き、いつものように酒を飲んでいた。

「タケダ…、どうしたらいいんだろう」


「タケダはずっと病気を隠して、話を聞いてくれてたもんな」

今更、タケダがどんな精神状態かを想像していた。


「ごめんな。タケダはずっと苦しかったのに、俺ばかり愚痴言ってさ」

涙が出てきた。

俺はとても情けなかった。


この頃から、俺はいつも下を向いて歩くようになっていた。

前を見ることが、上を向くことが怖く、そしてそんな気力もなかった。



タケダの手紙を置き、俺はひたすらタケダに対して、謝罪をしていた。

気がつけば12月に入っていた。


クリスマスには、タケダにクリスマスプレゼントとケーキを買った。

俺はタケダの手紙に対して、感謝を述べた。


1月には大学の後期の期末試験があった。

その頃には就職活動での失敗が続き、講義に出ず、勉強もしてなかった。

ただ、タケダの手紙を置いて、愚痴を言い、パチンコに行った。

そして、期末試験を俺は受けなかった。


2月にふと、説明会を応募しようと思ったが、流石に開催しているところが見つからなかった。

よく探せばあったのに、よく探す気力すらなかった。


3月に入り、春の匂いを感じた。


1年近く前の4月に、タケダと俺は出会ったのだ。


あの日、俺はタケダになぜか魅かれた。

こいつに話しかけないとダメだと感じた。

名前も知らない男がとても眩しそうに外を見ていた。

周りを見ていた。


タケダと話をして、休学してたから、懐かしさを感じてたのかなと後で思っていた。

でも違ったのだとこのときわかった。


未来が眩しかったんだ、可能性が羨ましかったんだ、ジブンにはそんなものがないことがわかっていたんだ。


いつものように、タケダの手紙を置いた。

「タケダ、気づいてやれなくてすまん。やっとわかった」


俺はタケダにこのことを伝えたいと思った。

わかったよって。

やっとわかったよって。



夕方、俺は家の屋根に登った。

子供の頃兄と一緒に登った時、親に叱られた。

無性に登りたくなったから登った。


タケダがみていた夕日を、俺が知る一番よく見える場所で。

綺麗な夕日だった。

いつも見ているのに、綺麗だった。

真っ赤で、丸く、まるで食べごろの林檎のようだった。

怒りで顔を真っ赤にすることはあるが、そういう負の感情が一切ない、純粋な赤さだった。


もう1度タケダの手紙を俺は読んだ。


手紙を強く握りしめた。

そして、走り出した。

跳んだ。


「タケダ!」

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ただただ、感謝しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ