6話 手紙
「夕刊取ってきて」
「わかったよ」
俺は家のポストに夕刊を取りに行った。
そこには手紙が入っていた。
「手紙?タケダからだ!」
夕刊をかーちゃんに渡すと、急いで部屋に戻った。
ゆっくりと、丁寧に手紙を開いた。
小田林へ
タケダです。
いきなり音信不通になってしまい、申し訳ない。
元々、俺は闘病生活をしていました。
2年程治療に専念していましたが、結局治療することが難しいようでした。
いよいよ状態が悪くなり、今年の4月前に医師に余命を宣告されている状態でした。
残りの短い時間で、自分がしたいことをしようと考え、休学していた大学に行きました。
そして、小田林に出会いました。
小田林から将来の話を聞いた日が俺が行動できる限界でした。
その翌日からはまた入院しました。
この手紙は、病院で書いています。
俺が亡くなった後に、1週間くらい経ってから、ポストに投函するように親に頼みました。
この手紙が届いている頃には、俺はもういないでしょう。
俺は小田林に出会えてよかったと思っています。
恐らく、小田林に出会ってなければ、なんとなく大学に行って、結局自分の人生に価値はなかったなと思って、死んでいたと思います。
初めは随分変わったやつだなと思ってました。
会ったその日から、名前を知らない奴に延々と過去の愚痴を言い続けている。
会うたびにずっと愚痴を言い続けている。
小田林は過去に縛られ続けているように見えました。
しかし、最後に将来について語ってくれました。
吐きだしきったのか、夢について語ってくれました。
あのときの小田林の顔はとても生き生きとしていて、俺には別人に見えました。
人の夢を聞くのは良いもんだとそのとき思いました。
過去に縛られていた人間が、未来に目を向ける手助けができたのかなと思いました。
それなら、一先ず自分の人生に価値はあるなと思えました。
小田林が将来について語った日の帰り道、俺の前に猫が止まり、俺の横を車が通り過ぎました。
よくあることだし、普段は全く気にもしないのですが、その日はよく見ていました。
自分自身が当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではないとふと思いました。
もう、この道を歩けないんだなと。
もう、俺には日常はないんだなと。
日常って当たり前じゃないんだなと。
最初から、特別で、大切なものが与えられていたのだと。
今まで、自分自身の人生に特別なものはなく、ただ病気になり、苦しんで、何もないまま死んでいくことに恐怖を感じていました。
死ぬこと自体も怖いですが、自分自身が存在していた跡や価値が全くないこと、自分の人生に特別なものがなかったことが怖かったのです。
それに帰り道、はっきりと気づきました。
そして、小田林のおかげで、自分の人生に価値を見出せたし、特別なものに満ち溢れていることに気づけました。
もし、出会ってなければ、何が怖いのかわからず、ただただ死ぬことに怯えていたと思います。
親もそんな俺を見て、苦しんでいたと思います。
俺が死んだ後も、俺の恐怖を緩和できなかったことを後悔して、生活を送っていたかもしれません。
就職活動、応援しています。
絶対に上手くいくなんてことは言えないです。
しかし、確かに小田林は俺を救ってくれたのです。
俺は小田林に感謝することができたのです。
最後に感謝して死ぬことができるのです。
だから、最後の、俺の人生の最後の言葉はこう決めています。
ありがとう
「…」
下から酒を2本持って来た。
1本は手紙の横に置いた。
「飲むぜ!かんぱい!」
そして、いつものように
「俺さ…」
タケダに向かって話を始めた。




