3話 男の名前を知る
1週間ほど経っただろうか、俺は体調が悪く、大学に行けてなかった。
体調がよくなったので、行くことにした。
午前中は、図書館で以前読んだ本の続きを少し読み、メディアルームで映画を観た。
昼に学食に行き、今日は味噌ラーメンを注文し、お盆を持って、窓際の席に着いた。
少しすると、隣に例の男が前と同じ油淋鶏定食を机に置いて、座った。
「よお」
「よお」
「大学で見かけなかったから、心配したぜ」
「心配かけてすまない」
「友達だからな」
「そうだな」
「今日も昼飯食ったら、俺の部屋で話をしないか」
「行こうか」
「今日もがっつり飲むぜ」
食事をした後、男の部屋に行った。
「そういえば、名前を知らないな」
「タケダだ」
「小田林だ」
小田林はそういうと手を出してきた。
俺は握手をし、前と同じように床に座った。
「ちょっと元気の出る飲み物取ってくるぜ」
そういって、小田林は階段を降り、下に酒を取りに行ったようだった。
小田林の部屋を見回すと、相変わらず漫画で溢れていた。
布団は洗ってないようで、黄ばんでいた。
床にたくさんの埃が落ちている。
少し整理をしてやるかと思い、漫画本を俺は片付け始めた。
どんな漫画を読むのだろうと、少し読むと、どうやら弱い少年が強くなって、強敵を倒していく、よくある少年漫画系統が多いようだった。
「その漫画面白いだろ」
小田林は発泡酒を両手に持ち、笑顔で言った。
「面白いな」
「そうだろそうだろ。さて、飲むか。かんぱーい」
そう言うと、小田林は勢いよく発泡酒を飲み始めた。
キンキンに冷えてるようだった。
「うめぇえ」
「良い飲みっぷりだな」
「おう」
「俺さ、中学の時に好きな女の子がいたのよ」
「うん」
「まあ、小学校のときから好きだったんだけどさ。中学でも好きなままで、その子が生徒会に入るっていうから、俺も生徒会に入ることにしたんだよ」
「生徒会に入ってたのは意外だな」
「その子がいなければ絶対に入ってないぜ」
「そんな感じがする」
「ただ、生徒会に入ったおかげで、途中までだけどさ、偶に一緒に帰宅できたのよ」
「最高だな」
「俺も最初はそう思ってた。でもさ、ある時、その子が好きな男の子がいるらしくて、その子の誕生日に何をプレゼントしたらいいか相談してきたんだ」
「うん」
「俺ショックだったけど、嬉しそうな顔を見てるとさ、力になってやりたいと思ったんだよ。」
「優しいんだな」
「だから、その子のために何をプレゼントしたらいいか色々調べて、腕時計辺りが無難だろうなって思ったわけよ」
「定番だな」
「パンフレットを集めてさ、その子に色々見せたわけよ」
「うん」
「その子めっちゃ喜んでくれてさ。俺も嬉しかったよ。でも、…」
「うん」
「結局、時計はプレゼントしなかったんだよな。その好きな男がさ、バスケ部だから、リストバンドをプレゼントしたらしい」
「そっかぁ…」
「あの時間はなんだったんだろうな」
「甘酸っぱくはないな」
「そうだな。しかもさ、その女の子の恋が実ってしまっちゃってな。生徒会の帰りに、男と一緒に帰るのを見送ったよ」
「…」
「あの時の夕日の色は覚えてるよ。真っ赤だったんだ。しかもさ、天気予報で雨は降らないって聞いてたのに、雨が降ってたんだよ」
「うん」
「二人は晴れだったのにさ、俺だけ雨だったんだよ」
「切ないな」
「でも、仮に雨が降ってもさ、付き合ってるなら相合傘できるだろ。最高だよな」
「最高だな」
「雨の日に相合傘で帰るのも見たんだよな。密かにつけてったらさ、男の家に一緒に入っていったんだ」
「気配の消し方うまそうだもんな」
「おう。流石に、その日は部屋で一日中泣いたぜ」
「青春だな」
「でもさ、結局、その女の子は別れてさ、高校含めて5人と付き合ってんの」
「人気者なんだな」
「可愛くて、ノリが良いからな。でも、俺と付き合うことはなかったんだぜ」
「悲しいな」
小田林は一気に残りの酒を飲み干した。
「この前さ」
そう話しながら2本目に手を付けた。
別の話をし始めるようだった。
「この前、パチンコ屋で23時まで打ってたんだけどさ」
「うん」
「その日は1時間くらい歩いて、パチンコ屋にいったのよ」
「すごいな」
「結局、負けたんだけど、閉店間際までいたのよ。それで帰るのめんどくさくなってさ」
「うん」
「友達に迎えに来るようにお願いしたんだよ。そしたらさ…」
「嫌なことがあったんだな」
「そいつ事故ったんだよ。田んぼに突っ込んだんだってさ」
「けがは大丈夫だったのか」
「優しいんだな。俺が最初聞いたときは、これで歩いて帰らないといけなのかって思ったよ」
「1時間だもんな」
「結局、歩いて帰ったんだけどさ。それもきつかったんだけど、その後がもっと酷くてさ」
「さらにあるのか…」
「そいつが事故は俺のせいだって、家の前で騒ぐんだよ。目が血走ってた」
「怖いな」
「怖いなんてもんじゃないよ。親に事情を話したらさ、親も呆れてたんだよ」
「事故とは関係ないもんな」
「でも、払わないなら殺すとか騒いでさ、親もちょっとこれはやばそうって思って、親がお金20万円払ったんだよ」
「そうか…」
「マジで俺関係ないのにな。その後、親にめっちゃ叱られた。でも、あれ以外に解決策はなかったよ」
「そうだな」
「警察なんか呼んだら、一家皆殺しにされそうだしな」
「ありえそうだな」
「しかもさ」
「まだあるのか」
「そいつ、彼女と遊んでたのに、俺を迎えに行こうとしてたんだよ」
「きついな」
「それでさ、彼女がちょっとケガしたらしくて、それでさらに10万円後でおばあちゃんが払ってたって聞いた」
「ケガが軽いと良いな」
「ほとんど無傷だって言ってたよ。なんか、彼女といたって言ってみたら、さらにお金払ってもらえそうって言ってた」
「すごいな」
「それでさ、そいつ臨時収入が入ったって喜んで俺にメールしてきてさ、珍しく酒をおごってもらったよ」
「すごい味のしそうな酒だな」
「うまかったぜ。でも、一体誰のお金なんだろうな…」
「そうだな…」
男は心底疲れた顔をした。
2本目の残りを一気に飲むと、男は横になって寝始めた。
俺は、そっと毛布を掛け、家に帰ることにした。
もう、夕方だったのだ。
男がさっき言っていたような、真っ赤な夕日を眺めながら俺は帰宅した。
男に少しでも良いことが起こるように、祈りながら。




