2話 知らない男の家
俺は、大学で出会った奇妙な男の家に行くことになった。
どうやら実家住みらしく、父、母、おばあちゃん、お兄さんと暮らしているようだった。
「あがってくれ」
「お邪魔します」
部屋まで案内された。
部屋の中はとても汚く、地面に布団が引いてあり、漫画があっちこっちに散乱していた。
しかし、テレビなどはないようだった。
俺が部屋を観察している間に、酒を持ってきたようだった。
「じゃあ、飲むか。かんぱい!」
酒が飲めないと伝えていたので、俺の分の酒はないのは当然だが、他の飲み物を持ってきてくれるわけではなかった。
「座れ、座れ」
「酒は最高だぜ。嫌なことを忘れさせてくれる。やらなくちゃいけないことも忘れさせてくれる。」
男は神妙な顔をして語り出した。
「酒のおかげで、バイトも忘れたことがあるぜ」
「色んなことを忘れさせてくれるんだな」
「俺の部屋、テレビないだろ。前にさ、深夜アニメみたくて、ばーちゃんの部屋にあるテレビをこっそり運ぼうとしたんだ」
「うん」
「そしたら、寝てるばーちゃんの頭にテレビが落ちそうになってさ、危うくばーちゃんをあの世へ運ぶところだったのよ。俺はテレビを運びたかっただけなんだけどな」
「そうか…」
「ちょっと手が滑ってさ、全てがスローモーションになって、ギリギリキャッチできたんだ。流石に焦ったぜ。」
「すごいな」
「翌朝さ、ばーちゃんがじーちゃんが迎えに来たって騒いでさ。なんか、一緒に行こうってところでじーちゃんが一人で行ってしまったんだと」
「もしかしたら、一緒に行ってしまってたのかもしれなかったんだな」
「やばいよな。じーちゃんはがっかりしたかもしれないけどな」
「そういえばさ、昨日パチンコ屋に行ったのよ」
「うん」
「俺金ないから、いつものようにばーちゃんの財布から勝手にお小遣いもらってさ、行ったのよ。」
「ばーちゃんは優しいんだな」
「いつもお金が消えたって言ってる」
「そうか」
「せっかく、ばーちゃんが必死に溜めた金なのにさ、パチンコで勝てないんだよ。」
「悲しいな」
「ばーちゃんの1万円がさ、あっという間に消えたんだ。ムカついて、台を殴ったら、手は痛いわ、店員に怒られるわで最悪だったぜ」
「そういう日もあるさ」
「んで、店員に怒られて、帰る途中でさ、俺が打ってた台を見るとあたってんの。やってらんねーよ。帰ったら、ばーちゃんが金が消えた消えたって騒いで、俺を疑うんだ」
「切ないな」
「孫だぞ!確かにお金はもらったけど、孫を疑うなよなー」
「ばーちゃんに良いことがあるといいな」
「そうだな。ばーちゃんの金だけど、パチンコで勝ったらばーちゃんにプレゼントするよ。いつもばーちゃんのおかげでパチンコ打てるからさ。本当に感謝してるんだ」
男は心から感謝してるようだった。
「前にさ、親父が歯医者行くから仕事休んだ日があったんだよ」
「親父さん、歯が悪いんだな」
「その日は、俺は学校休んでパチンコ屋に行ったのよ」
「いつものことなんだな」
「今日こそ勝つぞ!と楽しみにしてさ、台に座って打ってたのさ。ふと、何かを感じたのか後ろを向くと、歯医者に行ったはずの親父がパチンコ打ってたんだよ」
「親父さん、ストレス溜まってたんだろうな」
「まあ、禿げ散らかしてるからな。それで、親父も何を感じたのか、後ろを振り返って、目があったんだよ。そっとさ、親父が俺に5000円渡したんだよ」
「親父さんは優しいんだな」
「あのときは、普段クソ親父だと思ってたけど、最高の親父だと思ったぜ。でも、せっかく親父がくれた5000円があっという間に消えたんだよ。」
「悲しいな」
「パチンコ屋っておかしいよな。いつも勝てねえ。周りは勝ってるのに、俺だけかてねぇ」
「ギャンブルって厳しいんだな」
「パチンコはよ、ギャンブルじゃないんだ。あれは俺の人生なんだよ。でも、みんなの想いが詰まったお金でも勝てないんだ。勝ってる奴らは一体何を乗り越えてきたんだよ」
「すげえ奴らが集まってるんだな」
「なんせ、朝から並んでるやつらばかりだ。やっぱ、面構えが違うよな。生活費かけてやってる奴もいるから、マジで生きるか死ぬかの闘いだぜ」
男はずっと、酒を飲みながら話を続けていた。
話を聞いてるとロクでもない奴だなと思ったけど、一生懸命話す男に、俺は眩しさを感じた。
その日は、夕方までずっとパチンコの愚痴を聞き続けた。
3本程、男は酒を飲み、寝てしまった。
俺は、男に毛布を掛け、帰った。
変わったやつだなと思った。
そういえば、男の話を聞いてる間は、自分がもうすぐ死ぬことなんて忘れてたことを思い出した。
どうしようもない男だったが、ほんの少しだけ俺は感謝した。
今日は、いつもよりは安心して寝れるなと思った。




