表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春夏秋冬カルテット  作者: 音吹
8/68

再会⑧

 それからもう一時間ほど残業して、家に帰ったのは夜の九時前だった。コンビニで買ってきた親子丼を電子レンジでチンする。ブーンという音を聞きながら、二〇三号室の方へ目を向けた。帰ってくるときベランダが見えるのだが、部屋に電気は点いていないように見えた。まだ仕事中なのだろうか。営業は残業が多いイメージだがどうなんだろう。


 チン、と鳴ったレンジから熱で少し歪んだ容器を取り出し、ローテーブルへ持っていく。


『春夏秋冬カルテットで、また集まりたい』


 昨日の夏樹の言葉が頭に蘇る。開けたベランダの窓から生ぬるい風が入ってきた。いただきますと手を合わせて湯気の出る親子丼に箸をつける。つゆが美味しい。テレビは女性のニュースキャスターと男性のコメンテーターが何やら難しい話をしていた。


 行儀が悪いがスマホを操作する。電話帳を開いてグループ一覧を見た。家族、病院、友だち、猫本建設工業。そして……春夏秋冬カルテット。


『高校卒業してバラバラになって十年後に再集結、みたいな話?』


 そのフォルダをタップすると、三人の名前が表示された。上から黒瀬冬弥、芹澤秋菜、友川夏樹。真ん中を選んで『電話をかける』に指を置こうとして、そのままスマホを伏せる。これを繰り返すこと十年。わたしはちっとも前に進まない。


 朝、夏樹は繋がらないと言っていた。自分でも試せばいいのに勇気が出ずに諦めてしまう。別に喧嘩別れしたわけではない。卒業式の日はみんな笑って別々の道を歩み始めた。忙しさにかまけて思い出さないようにしていたが、どこかでみんな元気かななんて思ったりもしていた。


 大学進学のために広島の田舎町から都会に出てきて、紆余曲折を経てあの会社に入った。十年も会わなかったのに、夏樹がわたしを見つけた。偶然か必然か分からない。


『……こうして俺と春香が十年ぶりにバッタリ会ったのって、奇跡じゃと思うんよね』


 心の奥にしまっていた箱が小さく揺れた。


 あぁ、わたしは。


 会社用のカバンからB6サイズの手帳を取り出し、表紙をめくった。そこには一枚の写真がはせてある。『卒業おめでとう!』と書かれた黒板の前に四人で並んで撮った、高校最後の写真。


 ――『あ、ちょっと、写真撮ってくれる?』


 ただの幼馴染なんかじゃなかった。


 ――左からわたし、夏樹、秋菜、黒瀬くん。


 高校生の頃までずっと。


 ――『ほら、みんな、ピースピース! 春夏秋冬~カルテット~!』


 この屈託なく笑う夏樹が、好きだったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ