一番②
「なんじゃああいつは。早よ春香のこと諦めたらええのに」
「黒瀬くん、色気増したよね? こりゃますますモテてるな」
「春香さん? 俺のこと好きですよね?」
「はいはい好きですよー」
会計は自動精算機なので、薬を貰ったあと五分ほど待って機械を操作する。お金を精算機に入れる夏樹を見ながら、わたしは「そういえば」と話しかけた。
「秋菜から招待状届いた?」
「ああ、結婚式の? 届いとった届いとった。でもすげぇよな。フランスでも挙げて日本でも挙げるって」
「ね。いいなぁ結婚式。憧れるなぁ」
すでにフランスでの挙式は終えているそうで、何枚か写真を送ってもらった。背の高いイケメンの旦那さんをゲットした秋菜は、どれも幸せそうな顔で写っていた。ドレス姿もきれいで、日本では和装をすると言っていた。秋菜は何を着ても似合うだろうな。想像しただけで笑みが零れた。
精算機から吐き出されたレシートを取った夏樹は、ポリポリと頬を掻いた。
「じゃあさ、俺たちもする?」
「何を?」
「じゃけぇ、結婚」
「……はい?」
……さーん、診察室へどうぞー、と看護師さんの声がどこからか聞こえた。肩に掛けたショルダーバッグの持ち手がずり落ちる。しばらくそのまま固まって、我に返った。自動精算機の前から離れ、出口へ向かう。
「待って春香」
「え、今!? 軽くない?」
「え、俺結構勇気出したんじゃけど」
「いやいや、ここ病院だよ? TPO考えてよ」
「場所の問題なん?」
「場所とムードね。黒瀬くんだったら夜景の見えるお高いレストランとかで指輪パカっとかやってくれるんだろうなぁ」
「あ、ここで冬弥の名前出す? ホンマはまだ冬弥のこと好きなんじゃ……」
外に出ると冷たい風が頬を撫でた。桜の木についた緑の蕾が、暖かくなるのを今か今かと待っている。
「わたしの一番は、夏樹だから」
振り返ると、三つの泣きボクロを密集させて驚いた顔をした愛しい人がいた。手を差し出すと大きな手が重ねられる。お手、と思ったのは内緒だ。
「俺の一番も春香じゃけぇ」
「うん」
それからわたしたちは、どちらからともなくきらきら星を口ずさんで、歩きはじめた。
「プロポーズはやり直してね」
「……はい」
Fin.




