後悔と嘘⑩
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小学六年生の冬にも一度、夏樹は入院をしたことがあった。その時は発作を起こしたが大事には至らず、でも手術を検討した方がいいかもしれないと言われた発作だった。
「わたしのせいじゃ」
「違う、うちのせい」
「いや、俺のせいじゃわ」
春・秋・冬トリオは夏樹のベッド周りに集まり、各々自分を責めていた。
「やめい。誰のせいでもないわ。強いて言うなら俺の心臓が弱いせいじゃ」
入院着の下から伸びる線は、夏樹の心臓の拍動に合わせてピッピッと鳴るモニター心電図に繋がれていて、ドラマでしか見たことなかったわたしは現実でもあるのかと不思議な気持ちになった。
──雪がよく降る日だった。小学校のグラウンドに積もった雪で雪合戦をしていた。他のクラスメイトもいて、十人くらいだったと思う。激しい運動が出来ない夏樹は、審判を務めていた。
「井上、危ない!」
「おい黒瀬、王子様かっ!」
「春香ちゃん羨ましい!」
「守られてばっかでつまらんが!」
ギャーギャー言いながら楽しく遊んでいた。楽しすぎて、みんな忘れていた。夏樹が心臓に病を抱えていることを、すっかり。
「夏樹もくらえっ!」
両手ほどの大きさの雪玉を、黒瀬くんが夏樹に向かって投げた。それを皮切りにみんなで夏樹に雪玉を投げ始める。
「わっ! やめろっ!」
「やーい夏樹。悔しかったらやり返せ!」
「言ったな~」
夏樹は最近調子がいいから少しくらい大丈夫だと思ったらしい。足元の雪をかき集め、丸めて、投げる。その動作を何度か繰り返した。走って追いかけっこをしたわけではない。ただ、上下に少し動いただけだった。
突然しゃがみ込んだ夏樹を、少し離れたところで見ていた。雪をかき集めているのだと思ったのだ。そうではないと気付いたのは、夏樹が雪の上に倒れた時だった。
「夏樹っ!」
最初に夏樹の元に駆けたのは黒瀬くんだった。それからわたし、秋菜、クラスメイトが続いた。
「夏樹⁉」
顔面蒼白になった夏樹の額に脂汗が浮かんでいた。
「井上、先生呼んできて」
「分かった!」
秋菜も他のクラスメイトも動揺していて、正義感と責任感の強い黒瀬くんはすぐ動けるわたしを指名した。この頃にはお互い医者と看護師を目指していたので、適切な判断だったと思う。
それから救急車で運ばれた夏樹は、一命を取り留めた。
「俺が最初に夏樹を挑発したけぇ」
「それに続いたのはわたしじゃけぇ、わたしのせいじゃ」
「うちも加勢したし、夏樹くんが倒れても何も出来んかった」
グズグズ鼻を啜るわたしたちに夏樹は「じゃあさ」と人差し指を立てた。
「みんなが悪かったってことで、みんなで謝ろうや」
この時は夏樹が覚醒していたから「ごめんなさい」と謝ることが出来たのだ。謝罪は意識があることが前提だ。それからわたしたちは笑い合って四人の絆は深まった気がした。




