表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春夏秋冬カルテット  作者: 音吹
25/68

好きだった人④





「ちょっと、どこ行くの?」


 てっきり十階の社員食堂に行くものだと思っていたので、エレベーターで地下一階に降りたとき、前を歩く夏樹に声をかけた。


「どこって、ご飯食べに行くんじゃろ? 車出すけぇ乗って」


 少し進むと営業車が何台か停まっていて、一台の白いバンに近付く。ピピッという音がした後運転席を開けた夏樹は、そのまま乗り込んだ。


 え、どこかに食べに行くの? 聞いてないよ。突っ立っていると、夏樹は運転席の窓を開けた。


「どしたん? 早よ乗らんと休憩時間なくなるで」


「え、あ、うん」


 促されるまま助手席に乗り込んだ。


「近くに春香の好きそうなカフェがあるけぇ、そこ行こ」


 キョロキョロ車内を見渡していると、夏樹はエンジンをかける。わたしの好きそうなカフェ? そう言われると少し心が弾んだ。


「ちょっと、飲みかけのペットボトルを車内に置くな」


「捨てるん忘れるんよね。あとでコンビニで捨てる」


 薄暗い地下から地上に出て、眩しさに目を細めた。車内にいても聞こえる蝉の声に、おでこから汗が吹き出る感覚に陥る。


「夏樹が運転……なんか変な感じ」


「そう言われるとそうじゃな。俺も助手席に誰か乗せて走ること無いけぇ、なんか変な感じじゃわ」


 へぇ、誰も乗せてないんだ。まぁ社用車だし、それはそうなんだろうけど。


 五分ほど走らせて「ここじゃ」と一軒のオープンテラス席があるカフェを指差す。パラソルの下で何組か食事をしていた。駐車場はないみたいなので、近くのコインパーキングに停めてカフェまで歩いた。


 『cotton café』という、白と水色のパステルカラーの外装が可愛いカフェだった。こんなカフェがあるの知らなかった。


 オープンテラス席にするか訊かれたけど、暑いので中にしてもらった。低めのテーブルに全席ソファー席の一席に案内され、向かい合わせで座る。


「ねぇ、もしかして夏樹が来たかったんじゃないの?」


 客層は大学生やOLといった若めの女性が多かった。男の人もいたが、女の人とペアで来ていて男一人で来ている人は誰もいない。


「あ、バレた? 営業であちこち回っとると気になる店とか多いんよね。大体が男一人で来るようなとこじゃないけぇ、春香がおってくれて助かる」


 でも春香もこういう店好きじゃろ? 夏樹はそう言ってくしゃりと笑った。


「まぁ嫌いじゃないけど」


 大体の女子は『カフェ』という単語だけでテンションが上がると思う。わたしも例に漏れず、外装が可愛かったこのカフェのことはメニュー表を見なくとも好きになっていた。


 それにしても夏樹はカフェが似合うな。


 着ている服はスーツだが、顔が童顔だし犬系男子なので全く浮いていない。これなら一人で来ても問題ない気がするけどな。


「何頼む? 俺、ロコモコ丼ランチセットにしようかな」


 メニュー表を横に置いて楽しそうに選んでいる。「春香は?」と上目遣いで訊かれて、あまりのあざとさに少しイラっとした。なにが『ロコモコ丼ランチセットにしようかな』だ。女子か。


「あー、じゃあパスタランチセットで」


「あ、俺もそれと迷った! 俺のハンバーグと少し交換しようで」


 すいませーん、と店員さんを呼ぶ夏樹に目眩がした。食べ物を少し交換するとかもうマジで女子だ。友だちかよ。


 セットに付いてくるジュースは同じオレンジジュースを頼み、先に来たそれをお互いストローで啜る。周りの客の話し声がザワザワ聞こえる中、わたしたちは無言だった。


 チラ、と夏樹を見やると、ストローを口にくわえたままテーブルを見ている。透明のストローはオレンジ色を吸い上げていないので、飲んでいるフリをしているのは明らかだ。そっちから誘ったくせに何も喋らないとかどういうことなの。わたしは小さく息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ