表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春夏秋冬カルテット  作者: 音吹
24/68

好きだった人③





 夏樹のことを好きだと自覚したのはいつだったか覚えていないけど、この人のそばにいたいと思ったのは小学三年生だったことはよく覚えている。


 田んぼの上でトンボがたくさん飛ぶ季節。家が隣同士だったので下校時は、秋菜と黒瀬くんと途中で別れてからいつも二人きりだった。


「春香ちゃん」


「なに? 夏樹くん」


 この頃はまだお互いのことを呼び捨てで呼んでなくて、背もわたしのほうが高かった。わたしの後ろを歩いていた夏樹は足を止め、か細い声で言った。


「あんな、僕な、心臓の病気じゃろ?」


「うん」


「この心臓、いつ止まるか分からんのんじゃって」


「うん。知っとるよ」


 余命の話は母から聞いていた。


『夏樹くんは心臓の病気で、もしかしたら一緒に中学校に上がれないかもしれないけど、仲良くしなさいね』


 まだ誰かの『死』というものを経験していなかったわたしは、『いなくなる』とか『会えなくなる』ということに対して鈍感だった。ゲームだって、ゲームオーバーになってもコンティニューできるんだから全く姿を消すわけじゃないんでしょ、と思っていたのだ。


「僕な、怖い」


 背負ったランドセルの肩ベルトを両手でそれぞれギュッと握りしめて、夏樹は下を向く。


「怖い? なにが?」


「死ぬのが、怖い」


 わたしには意味が分からなかった。首を傾げる。


「なんで? 死んだら天国ってとこに行くんじゃろ? そこで生きれるじゃん」


 純粋にそう思っていたので、夏樹は何をそんなに怖がっているのか理解できなかった。夏樹は力なく首を横に振る。


「死んだらな、真っ暗になってな、もう、みんなに会えんくなるんじゃって。僕が、僕じゃなくなるんじゃって」



 死と隣り合わせだった夏樹に、ご両親は包み隠さずすべての真実を伝えていたんだと思う。親も辛い事実を、たった九歳の子どもにきちんと教えるということはどれだけ心苦しかったろう。


「……まだ、死にたくないっ!」


 顔を上げた夏樹の目から、涙がポロポロ零れた。突然の涙にわたしは戸惑った。


 なんで泣いているのか、どうしたら泣き止んでくれるのか分からず、わたしまで泣きそうになる。しかし「怖い、怖い!」と泣きじゃくる夏樹を見て、わたしは大声を出していた。


「わたしがずっとそばにおっちゃるけぇ!」


「え?」


「夏樹くんは死なせん! わたしが夏樹くんを死なせん!」


 ツカツカと夏樹の前まで行き、ポケットに入れたハンカチで目元を拭く。夏樹は大きな目を瞬かせて「ホンマに?」とわたしを見上げた。


「ホンマ! 約束!」


 小指を突き出すと、夏樹は泣き笑いの顔で小指を絡ませた。


「じゃけぇ、もう泣かんで。わたしが守るけぇ」


「うん!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ