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98話 察知しました!?

 ……うん?


 何かが頬を掠めた気がして、突然目が覚めた。

 確か砦の一室を借りて、そこで寝ていたはずだが。


 目を開くとそこには耳をピンと立てるメルクが。


 ソルムと仲間はすでにイリアとメルクが亜人と知っているから、耳と尻尾が出ようが構わない。安心して出してしまったのだろう。


 俺の頬を掠めたのは、このメルクのふさふさの耳だったようだ。視線を落とすと、すやすやと寝息を立てるメルクがいる。


 というか、いつの間にか俺の胸元に入ってきたのか。いや、目を覚ますと誰かしらくっついているのは、最近では普通のことだが。後ろは後ろでイリアが俺に抱き着いているし。


 だが、突如メルクの耳がぴくりと震える。


「ヨシュア……」


 ぱちりと目を開くメルクは俺の顔を見上げる。


「ご、ごめん、メルク。起こしちゃったか?」

「違う……何か、たくさんやってくる。でも、その前にこの音は」


 俺の耳にも、バサバサという音が聞こえる。


 それは、この部屋のバルコニーに近づいているようだった。


「アスハさん?」


 目を覚ましたイリアはそう呟いた。

 確かに聞き覚えのある翼の音だ。


 体を起こし、バルコニーに向かうと空には月光に照らされるアスハが。


「アスハ? ど、どうしてここに?」

「何かの大群が、この砦の南から迫っているのでご報告に。数はだいたい百。時折森の中からなにか光のようなものが見えました。三十分もすれば、ここに到着するでしょう。仲間には、フェンデルにも警戒するよう指示を」

「そ、そうだったか」


 なんでアスハがここを知っていているのか分からない。

 しかし、今はそんなことを気にしてられない。


「魔王軍かもしれないな……ソルムに伝えよう」


 俺はすぐさま一階へ降りて、会議室へ駆け込んだ。


 するとそこには、すでに起床したのか鎧姿で何かを書き記しているソルムがいた。


 ソルムは不思議そうな顔で訊ねてくる。


「ヨシュア殿。騎士団にいるわけでもないのに、こんなに早く起きなくても」

「それはこっちのセリフだ。そんなことよりソルム、仲間から南に何かが集まっているという報告があった」

「なんと。南には重点的に斥候を放ってはいますが、まだ何の報告もない」

「空からの情報だ。この速度なら、三十分でこちらに到着するらしい。警戒しておいて損はないだろう」

「ふむ……ヨシュア殿の言うことだ。皆、聞け」


 ソルムの声に、会議室で寝泊まりしていた騎士は目を覚ます。


「戦支度を整えよ。兵百を砦に、元騎士団員五十名は砦を出て集落の南に集結せよ。私は先に行って様子を見てくる」


 ソルムはそう言うと、昔俺が鍛えた大剣を手に外へ走った。俺もそれについていく。


 あたりは真っ暗。集落も道にいくつか松明が灯るだけだった。だが、すでに何名かは朝が早いのか起きている。


 その起きている者たちにソルムが告げる。


「皆、聞いてくれ。南から敵襲があるかもしれん」

「て、敵襲ですか?」

「安心せよ。我らが必ず皆を守る。お主たちは皆を起こし、ゆっくりと砦の中へ向かえ。まだ時間はあるし、たいした敵ではないかもしれない。くれぐれも焦らせるな」

「は、はい!」


 聞いていた者たちは、ソルムの言うように他の民衆を起こしに回った。敵襲と叫ぶのではなく、砦に行くぞと落ち着いた調子で。


 ソルムはそのまま南へと向かう。


「慕われているんだな」

「皆が私の声に耳を傾けてくれているだけです」

「いや、それに騎士団に所属していた者たちも結構な数がついてきてくれたんだろ?」


 ソルムの先ほどの言葉からすると、五十名の兵は元騎士団の者たちだ。


「慕われているわけではなく、皆、志を同じくする者たちというだけです。それに、万を超す魔王軍の前には……いや、私が騎士団に入ったときも、百名もいませんでしたな」

「ああ。だから、五十名も連れてきたお前は立派だ。お前ならもっと多くの仲間を集められるだろう。もっと自信を持て」

「……ありがとう、ヨシュア殿。ロイグ殿と別れた後、一度帰郷した者もいる。ロイグ殿に愛想をつかしてやめた者もいる。先程は、そんな彼らに協力を願う手紙を書いていたのです」

「きっと皆、また集まってくれるさ」

「そうだといいのですが」


 ソルムはこくりと頷いた。


 そんなことを話していると、集落の南端へと到着する。


 南には開墾中の平地、その先には森が見えた。数本の松明しか立っていないので、詳しくは見えない。


 見張りが数名、ソルムに気が付き近づいてくる。


「……ソルム様? いかがされました?」

「敵襲があるやもしれん。何か異変はあったか?」

「いえ。斥候からも連絡などは特に」


 しかしメルクとイリアには何者かが迫ってきているのが分かるようだ。


「ボアの匂いと、嗅いだことのない匂い……オークよりは綺麗好きかも。あと、鉄みたいなのが擦れる音がする」

「先行しているのは……馬でしょうか?」


 イリアの声に、ソルムが言う。


「ふむ……私からは全く聞こえないが、馬のほうは斥候かもしれませんな」

「ともかく、このままでは無防備だ。最低限、身を隠せる場所は作っておこう。クラフト──ウォール」


 俺は木の板を壁のように展開していく。

 だいたい、三十ベートルの長さの木の壁が目の前に現れた。


 矢やボルトぐらいならこれで防げるだろう。


 ソルムはそれを見て呟く。


「ありがたい。しかし、相変わらずどこにこんな木の量が……」

「ソルム様! 砦の防備は……え?」


 後ろからは続々と騎士たちが武装してやってきていた。

 だか彼らのほとんどは、目の前に壁が現れたことに驚いてる。


「これはヨシュア殿が作ったのだ。皆、前線で物を作るヨシュア殿を見たことがないのですよ」

「ただの木の板に何をそこまで驚く必要が……うん?」


 俺は森の中から馬蹄の音が響くのに気が付く。


 中から飛び出してきたのは、馬に乗った軽装鎧の男。斥候のようだ。


 斥候はこちらがすでに防備を整えていることに一瞬戸惑うが、すぐにソルムを見つけやってきた。


「ソルム様! 武装した魔物の集団が南から迫ってます! おそらくはゴブリンで、ボアや地竜に騎乗した者もいます! ……なのですが、すでに他の者が報告に?」

「ああ。だが、お前は十分早く報告してくれたよ。気にするな」


 ソルムはそう斥候を気遣うと、他の騎士に声を張り上げる。


「皆、聞いての通りだ! 魔王軍が迫っている! ヨシュア殿が作った壁を盾に、布陣せよ」


 その声に、騎士たちはおうと声を上げると、壁に沿うように布陣するのだった。

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