91話 帰還しました!
エルフとミノタウロスたちは俺の仲間となってくれた。
今はエルフのために道具を作っていたところ。
ミノタウロス一行は、先にフェンデルに向かってもらった。応援に駆けつけてくれたフェンデルの亜人たちに案内させている。
ベルドスの子供モーはひとまず、フレッタと一緒だ。フレッタにも何か考えがあるらしい。
「と、まあこんな感じかな」
倉庫に所狭しと並んだ道具と武器を見て、俺は額の汗をぬぐった。
弓を三十丁、矢を三百本ほど作り、さらに釣竿、漁網など漁の道具を作った。
これでしばらくはエルフたちも狩や釣りができるだろう。
他に工具や、桶、箱、食器なども作ってある。あと簡単な衣服も。
「また、これだけの量を……本当にお見事です」
俺の隣でモニカが呟いた。
「いや、まだまだ足りないと思う。特に矢はすぐに無くなるだろう。だからまた来るよ。ボートで運ぶのは時間がかかるからね」
「本当にありがとうございます、ヨシュア様」
「こちらこそフェンデル同盟に加わってくれてありがとう。俺たちはもっと仲間を増やしたい……そういやモニカは、他に亜人を知っているか?」
「人間に近い見た目の者ですよね? 長らく私たちは外界と繋がりを断ってきたので……いや、彼らなら」
モニカは何か思い出したような顔をした。
「誰か知っているのか?」
「故郷に伝わる、カッパのことです」
「カッパ?」
「はい。故郷に流れる川に姿を現していた者たちで、私たちと同じ手足を持っていたと聞いています」
「聞いていた、ってことは最近は見かけてないってことか」
「私はもちろん、少なくともこの百年は誰も見かけてないかと。彼らは泳ぎが得意で、またヨシュア様がお作りになったボートのようなものに乗っていたようです」
「水辺に生きる種族ってことだな」
しかしフェンデル周辺の水辺でもそんな種族は見たことがない。
もっと北の川沿いか、南の海に住んでいるのかもしれない。
もう滅んでいる可能性もあるが。
「そうだ、ボートといえば……ちょっと、様子を見に行くか」
桟橋では、イリアとメルクが、エルフたちにボートの漕ぎ方を教えているはずだ。
ボートも漁や運搬のため、十艘ほど作ったのだ。
俺とモニカは倉庫を出て、南の桟橋に向かった。
するとそこでは……
「フレッタ、もっと急ぐ。このままじゃアルベルトに負ける」
ボートの船首に立って言ったのは、メルクだ。
その後ろではフレッタがオールを漕いでいる。
「うん! 負けないよ!」
隣では、なんだか不安そうな顔のアスハがいた。
「メルクさん……あまり、急かさないほうが」
メルクたちだけでなく、他のエルフたちもボートを漕いでいるようだ。
横並びになっているのを見るに、競争でもしているらしい。
だがメルクのボートがリードしている。
もう少しで桟橋のほうへ到着するだろう。
「負けるか! このアルベルトは絶対に負けんぞ!」
そう叫んで必死にボートを漕ぐのは、エルフの騎士アルベルトだ。
アルベルトのボートは、メルクのボートに急接近する。
「あ、危ないよ、アルベルト! あっ!」
フレッタが声を発した瞬間、アルベルトのボートは転覆してしまった。
すぐにアスハが飛び立ち、溺れそうになるアルベルトを救い出す。
転覆したボートは、他のエルフたちによって何とか元の形に返された。
それを見たモニカは呆れたように溜息を吐く。
「全く……せっかくヨシュア様が作ってくださったものなのに」
隣で聞いていたイリアが呟く。
「皆、ヨシュア様の作ったものが新鮮なのでしょうね」
「まあ、ここまではしゃいでもらえると、俺も作り甲斐があるってもんだな」
俺はそう答えると、モニカに別れを告げることにした。
「モニカ。それじゃあ、俺はこのままボートに乗ってフェンデルに帰る。しばらくはこのボートで互いに連絡や、物資のやり取りを行おう」
「かしこまりました。私も明日、そちらに伺います。イリアさんたちが会議を開くとのことなので、色々打ち合わせも」
「そうか。ボートなら一時間もあれば行き来できるだろう。もっと早い帆船を作らせてもいいところだが……」
帆船は用意できても乗り手がいない。
オールは力が必要だが、操作は単純。
一方の帆は漕ぐよりは楽だが、扱いが難しいのだ。俺もあまり帆の扱いは分からない。
「それは追々だな……とにかくヘルアリゲーターには気を付けてくれ。常に槍と弓はボートに乗せておくんだ」
「かしこまりました、ヨシュア様」
そう言って、モニカは改めて頭を下げた。
「ヨシュア様、イリアさん……この度は本当にありがとうございました。ヨシュア様たちは、命の恩人です」
「でも、モニカ。まだ危機が去ったわけじゃない。これからも手を合わせて頑張ろう」
「はい。これからもよろしくお願いいたします」
こうして俺たちはフェンデルへとボートを出すのだった。
しかし、その船にはフレッタとモーが。
「いいのか、フレッタ?」
「うん! 私とモーはフェンデルに住む! お姉ちゃんやモーのお母さんたちの連絡係!」
「ほうほう。大使ってところだな」
「うん、その大使!」
「それじゃあ、立派な家を用意しないとな。大使館みたいなものだし」
するとオールを漕ぐメルクが呟く。
「ミノタウロスは大きいから頑丈にしないと後が大変。モーも多分すぐ大きくなる」
「言われてみれば……そういえば、ミノタウロスの家も作らなきゃいけないな」
まだまだやることは多そうだ。
俺たちは日が暮れる頃、フェンデルに帰還するのだった。




