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89話 一騎打ちでした!

「イリア! 大丈夫か!?」


 森から川岸へ抜け、俺は叫んだ。


 川岸では多くのミノタウロスたちが、囲うようにして何かを見ている。

 しかし、ただ立ち尽くすだけで誰も戦おうとはしていない。


 そんな彼らの視線の先には、激闘を繰り広げるイリアとミノタウロスの長がいた。


 頭上に迫る長の斧を避け、イリアは言う。


「先ほどよりも、動きが速くなりましたね?」

「これがオレの実力だ! 今はただ、お前をぶちのめしたい!」


 長はそう叫ぶと、斧をぶんぶんと振りまわし再びイリアに襲い掛かる。


「ヨシュア様がいいというまでは、決して負けません!」


 イリアは刀で斧の連撃を防ぎつつ、長の懐へ飛び込もうとする。


 だが長はすっと後ずさる。


 長の動きは、明らかに先程よりも機敏になっていた。


 メルクが呟く。


「さっきよりも速い。牛だから興奮している?」

「いや、洗脳の魔法が解けたからかもしれない」


 他のミノタウロスは、誰一人介入しようとしない。

 彼らはイリアにはとても敵わないと手出しできないでいるのだろう。

 キュウビの洗脳は解けたと見ていい。


「イリア! 目的は果たした! 一度城壁まで退くぞ!」

「ヨシュア様……ヨシュア様!!」


 イリアは俺の声に振り返ると、目を輝かせた。


「イリア、よそ見をするな! くっ!」


 俺はすぐにイリアにマジックシールドをかけた。

 ミノタウロスの斧が、イリアの眼前に迫っていたからだ。


 だがイリアは嬉しそうな顔のまま、刀を持つ腕だけを振るう。


 キン、という高い音が響いた。


「なっ!? この娘、先ほどよりもさらに力が!?」


 弾き返された斧に両腕を持っていかれるように、長は姿勢を崩す。


 長の顔は唖然としていた。

 イリアが間合いを詰め、天に刀を向けていたからだ。


「ヨシュア様の前では負けません! 絶対に!」

「ぐっ!?」


 とっさに斧を胸の前にして防ごうとする長。


 しかしイリアの振るう刀に、斧は粉砕されてしまった。


 長がそのまま地に尻をつく。


「な、なんという馬鹿力か……くっ!?」


 長の喉元に、イリアは刀を突きつける。


「まだやりますか?」

「……っ! 殺せ!」


 長は観念したような顔をするが、イリアは俺に視線を向ける。


 俺はそちらへ向かった。

 他のミノタウロスたちは手出しもせず、ただこちらを見ている。


「イリア、よくやってくれた」

「いいえ、ヨシュア様。ヨシュア様の前で、みっともない姿は見せられませんから」


 イリアはにこやかに俺に答えた。

 激戦で疲れているはずなのに、とても上機嫌だ。

 

 メルクがぽつりと呟く。


「イリアはわかりやすい。ヨシュアの前だと、力が出る」

「もう、メルクさん……そんなこと、当たり前じゃないですか」


 イリアは頬を染めると、恥ずかしそうに顔を隠した。 


「あ、ああ。何にしろ、何もなくてよかった」


 俺はそう答え、ミノタウロスの長に顔を向ける。


「自己紹介がまだだったな。俺はヨシュア。亜人の同盟、フェンデル同盟の代表をやらせてもらってる。お前の名は?」

「……ベルドスだ」


 ミノタウロスの長の名はベルドスというらしい。


「ベルドスか。俺たちは先も言ったように、人間じゃない。俺だけは人間だが……お前たちを閉じ込めた人間ではない」


 そう言うも、ベルドスは訝しむように俺を見るだけだ。


「ともかく、俺たちにはお前たちと争うつもりはないんだ。本当に殺すつもりなら、お前たちの足だけを狙ったりしないだろう?」


 ベルドスは周囲に目をやった。


 負傷している者はいても、死んでしまったミノタウロスはいない。


「何故……我らを殺さない?」

「さっきも言っただろ。敵意はないと」

「だが、オレたちはあの耳の長いニンゲン……」


 ベルドスは城壁の上にいるエルフたちに目を向けた。


「あいつらはエルフだ」

「そう、エルフを殺した。怒りのままに……」

「それは、お前たちが操られていたからだ。あの、キュウビというやつに。仮面のやつを覚えているだろう?」」

「覚えてはいる。外に出て、あの者の笛の音を聞いてから、我らの内なる怒りが膨れ上がった」


 ベルドスはふうと息を吐く。


「……状況がつかめてきた。オレたちは、あのキュウビに唆されていたようだ。お前たちはニンゲンじゃない」


 そう言うと、ベルドスは頭を垂れた。


「殺せ。仇を討つのだ」


 罪の意識、というものが彼らにはあるようだ。

 自分たちの怨念とは無関係のエルフたちを殺したことを、罪深く思っているのだろう。


 しかしミノタウロスたちは、あのキュウビに操られていた。

 魔王軍によって利用されていたんだ。


 モニカたちにも事情を話すべきだろう。


「ベルドス。エルフたちと俺らフェンデル同盟は、厳密に言えばまだ他人だ。だから、俺たちはお前をどうすることもない。それに、できればお前たちやエルフにも、同盟に加わってほしいんだ」

「オレたちを仲間に?」

「久々の地上で戸惑っていることも多いだろう。こちらも助けになれるかもしれない」

「しかし、あのエルフたちがオレたちを許すとは……」

「俺からエルフたちに事情を話す。ここは、任せてくれないか?」


 俺の提案に、ベルドスは周囲のミノタウロスたちと顔を合わせる。

 やがて、俺に頭を下げた。


「……処遇は任せるとしよう」

「決まりだ。それなら、ベルドス。お前だけ一緒に来てくれるか? お前の子も待っている」


 ベルドスは城壁の上から心配そうに見つめるモーに気が付く。


「……分かった」

「よし、それじゃあ行こう。ところで聞いておきたいんだが、先程口にしていたカルヴェリンとは?」


 ミノタウロスたちが先ほど怒りを増幅させたとき、ベルドスはそんな名を口にしていた。


 キュウビの苗字か異名か、それとも別の人物か気になったのだ。


 しかしベルドスは首を傾げる。


「カルヴェリン? オレはそんなことを言っていたか?」

「ああ。確かに」

「記憶にない……いや、どこかで聞いたような」

「分かった。思い出せたらでいい」


 何者なのだろう?

 キュウビといい、魔王軍には謎が多い。


 キュウビの話からするに、フェンデル同盟の存在はやはり知らず、どう対応するかは決まってないようだが……やはり油断できないな。


「ともかく、今は……メルク。皆を治療するぞ。杖はあるか?」

「わかった。アスハに杖持ってもらっているから大丈夫」


 俺とメルクは矢を受けたミノタウロスの足を素早く治療する。


「な、治った? 足が勝手に!」

「な、なんなんだ、こいつらは?」


 ミノタウロスたちは皆驚きの声を上げた。


 魔法を見るのが初めてなのだろうか?

 回復魔法は魔法でも初歩の初歩。

 恐らく、魔物たちも基本と思っている。

 それを知らないとなると、魔法に詳しくない可能性が高い。


 ベルドスが俺に向かって言う。


「奇怪な術だな……礼を言う」

「いや、これはあくまで傷口を塞いだだけだ。あまり無理はさせるな。それじゃあ、行こうか?」

「ああ」


 こうして俺たちは、中州にあるエルフの城塞へと向かうのだった。

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