86話 要塞ができました!
「よし、これで完成だな」
俺は汗を拭って、周囲を見渡した。
「な、なんだこれ? 岩に囲まれたぞ!」
「あの段々とした場所から、岩の上に行けるんじゃないか?」
「洞窟みたいな場所だな?」
エルフたちは俺の造った城壁や家屋に驚くような声を上げている。
とりあえず中州全体を城壁で囲み、その中に家屋を百軒ほど建てた。
中州は端からは端まで歩いても三分ほどの広さしかない。
だから家屋はすべて二階建てにして、密集するように建てた。
屋根や窓穴もあるので、居住性はしっかり考えている。
また出入り口には扉を付けたり、室内には簡単な木の家具も作成した。
水道を作りたかったのだが、こちらは地盤の関係で作れなかった。また俺たちの村の上水も調節する必要があるため、ひとまず井戸と肥溜めを作るにとどめてある。
「お疲れ様です、ヨシュア様。こちらを」
「お、イリア。ありがとう」
俺はイリアから水筒をもらい水を飲む。
「さすが、ヨシュア。仕事が速い。ここなら安心して眠れる」
メルクは狼の姿で俺が敷いた石畳の上で仰向けとなり、ゴロゴロとしていた。
「メルクさん……油断しすぎでは」
「城壁の中なら大丈夫。アスハも寝る。ひんやりして気持ちがいい。水の流れる音もいい」
メルクはそう言って、アスハを横にならせた。
するとアスハも何だか気持ちよさそうにする。
それを見たフレッタも石畳の上に寝っ転がった。
「本当だ、気持ちいい!」
他のエルフたちも続々と真似しだす。ほとんどが子供だが、何故か全裸のアルベルトも。
「ふむ……悪くない……は……はっくしょん!」
裸で寝転ぶから……風邪ひかないといいが。
そんなエルフたちにモニカが声を上げる。
「二人とも、みっともないですよ! ここは、ヨシュア様が私たちのために作ってくださったのです! 感謝しなければ!」
「まあまあ、モニカ。とりあえずは、君に施設を紹介する。ついてきてくれ」
「はい!」
俺はまず、モニカに橋を案内した。
通路の脇には、植木もしてある。地盤を頑丈にするためでもあるし、灰色の街に彩を加えるためだ。植木の下には、いくらか野花も植えた。エントが川岸から持ってきて植えてくれた。
通路を西に向かうと、アーチ状の城門があり、その向こうに橋が架かっている。ここは先程俺たちが通ってきた橋だ。
「ここは先程も通ってきた場所ですね……あれ、なにか糸のようなものが伸びてますね?」
モニカの言う通り、城門の上部から橋の川岸側へ糸……というのには太すぎるものが伸びていた。
「あれは鉄鎖だ。せっかく川があるから、跳ね橋にしたんだ。この取っ手を回すと……イリア、手伝ってくれるか?」
俺は城門の内側にある、車輪のような取っ手を指さして言った。
「はい! お任せください!」
イリアはすぐに取っ手を軽々と回し始めた。
すると、
「っ!? 橋が上がっていく!?」
「これが跳ね橋。これなら、ミノタウロスが入れないようにできるだろう? また、城門の扉は鉄にした。これなら簡単に破られない」
俺はさらにイリアに別の取っ手を回させる。
城門が重い音を立てて閉まるのを、モニカはじっと見ていた。
「す、すごい……こんな簡単に外とのつながりが断てるなんて」
「簡単だろ? あ、でも取っ手を回すときは五人以上はいたほうがいい」
これは本来、一人で回すものじゃない。鬼人のイリアだから一人で大丈夫というだけで。
「同じように、中州の南側にも城門がある。でもここは、桟橋に繋がっているだけで、出入りはできない」
「桟橋?」
「見に行こう」
俺は次に南へと向かった。
「おお、ここも先程と同じように」
「ああ。だが、外を出ると」
外には、石でできた桟橋があった。
そしてそこに、一艘のボートが浮かんでいる。
「これは?」
「船着き場だよ。これで俺たちのいる村と、舟で行き来できるようになる。まだフェンデルのほうは整備してないけど、ゆくゆくは大量の荷物をやり取りできるようにするつもりだ」
「なるほど……」
モニカはよくわからないといった顔をした。
まあ道具を作れないのだから、舟がどうこう言われても分かるわけないか。
実際に俺たちがボートで村に帰るところを見れば、なんとなく分かるかもしれない。
周囲を見渡しモニカは呟く。
「……ともかく。これなら四方から敵が来ても安全ですね。水に囲まれた上に、石の壁に囲まれています。とても安心しました」
「ああ。そうだといいんだが……」
俺の頭に、牛とよく似た水牛の姿がよぎる。
彼らは水の中も悠々と移動する。
牛の血を引くミノタウロスだ……もしかしたら川をものともしないかもしれない。
もちろん、城壁を破るような速さで突進してくるとは思えないが。
俺はモニカに言う。
「だが、最大の防御は攻撃だ。結局は、モニカたちの弓の腕次第……他にも武器は作るが、それを忘れないでくれ」
「はい! ここまでしていただいたのです。あとは自分たちで撃退します! ですが、お礼のほうが……」
「今はそんなことは気にしなくていい。ミノタウロスの攻撃をいかに防ぐかを考えるんだ。仲間の捜索もあるだろうし。それまで、俺たちも支援する」
魚網や釣竿を作ったりして魚を取れるようにもしてあげたい。
モニカは俺に頭を下げる。
「ありがとうございます……ですが、落ち着いたらお礼はさせてくださいね」
「ああ」
俺はモニカの声に頷いた。
だがその時、北の城壁のほうから声が上がる。
「み、ミノタウロスだ! ミノタウロスが見えるぞ!」
「な、何ですって?」
モニカと俺たちは急ぎ城壁へと向かうのだった。




