85話 中州を改造しました!
「弓! 弓! 我らが弓を称えよ!」
エルフの騎士アルベルトは半裸のまま、弓を掲げる。
他のエルフたちも勝利が嬉しいのか、同じように弓を掲げてアルベルトの周囲を踊り回った。
そんな中、メルクとアスハが中州から戻ってくる。
「ヨシュア、安心する。もうワニはいない」
「そうか。二人とも、ありがとうな」
メルクとアスハは、ヘルアリゲーターを誘い出してくれた。
いつも二人で狩りをしているからか、息もぴったし。
危険だと思ったが、いらぬ心配だった。
「お二人とも、さすがです! エルフの方々もお見事でしたね」
イリアは踊るエルフたちに目を向けて言った。
「そ、そうだな。神話の通り、エルフは弓の腕がいいらしい」
訓練だけでなく実戦でもそれを証明した。エルフたちはほとんどの矢を、ヘルアリゲーターに当ててみせたのだ。
鬼人も武器全般扱いが上手いが、弓はエルフのほうが一枚上手かもしれない。
「でも、変。あの踊りは絶対に変」
メルクは真顔で断言した。
メルクですら、あの踊りは理解できないのだろう……いや、俺もそうだが。
「……とにかくあいつらは躍らせておくとして、俺たちは築城を進めよう。もたついていると、ヘルアリゲーターがまた戻ってくるからな」
「はい! 私たちはヨシュア様の周囲を見張ればよいでしょうか?」
「そうだな……だが、大量の木が必要だ。中州の地盤を強化したい」
中州という場所はもともとぬかるんでいたりと、あまり地盤が固くない。
だから地盤を強化するため、丸太の杭を束にして、それを地中深くに突き刺す。
その上に石材を積んで基礎とするのだ。
干潟とか湿地の上に建物を建てるとき、 よく利用される技術だ。
「木はエルフたちに伐らせるか。おーいモニカ……って」
モニカは妹のフレッタや他のエルフと踊っている。
これはしばらく終わりそうもないぞ……
「アスハ……悪いが、フェンデル村から応援を呼んできてくれ。ゴーレムとエントに来てほしい」
「分かりました……あっ」
アスハは俺の後ろを見て、突如翼で顔を隠した。
「どうした? あっ……」
振り返ると、そこには全裸のアルベルトがいた。
興奮して激しく踊っていたせいか、ぽろっと腰巻が落ちてしまったようだ。
しかしアルベルトは恥ずかしがる様子もなく、笑っている。
「ふははは! まだまだ踊るぞ!」
どうやらエルフたちは裸に抵抗がないらしい。
とはいえ、さすがに夜は寒いしな……
「アスハ……悪いがモープの毛も送ってもらうよう、頼む」
「は、はい……」
それから少しして我に返ったモニカたちを加え、俺たちは中州の築城に取り掛かることにした。
まずは杭となる木材集めをしよう。
「モニカ、斧とピッケルを作ってある。エルフたちで木材と石材を集めてほしいんだが、頼めるか?」
「もちろんです。他の者も森から呼ばせますね。ですが、道具をいただいても、使い方が……」
弓以外の使い方はよくわからないようだ。
俺はエルフたちにそれを教えることにした。
だが、
「す、すげえ……あの人、木をあんな簡単に」
時間があるからと、イリアが刀で木を次々と切り倒していた。
「お、俺たちもこれがあればできるんだよな? よぉし! ……か、堅い!」
エルフたちは自分たちもと斧を振るうが、まあイリアの刀のようにはいかない。
あれは鬼人の角で鍛えた刀だ。鉄の斧とは切れ味が違う。
「最初は……というより、基本的に木を伐るときは何回も同じ場所を叩かなきゃだめだ。ピッケルのほうも同じで」
俺はその後もエルフたちを指導していった。
だがエルフたちもドワーフに負けず劣らず、道具の扱いの習得が早いようだ。
魔王の呪いだかがなければ、エルフたちも道具を作ってたんだろうしな……
だがその呪いがある以上、彼らには道具が作れない。
俺たちがしばらくは供給するしかなさそうだ。
皆に石や丸太を集めさせる一方で、俺は中州へ打ち込む杭を作成していく。
途中、アスハがゴーレムとエントたちを連れてきてくれた。
俺はゴーレムに大きな石材を採集させ、エントに中州から植物を移動させた。
それから俺は基礎と城壁を築いていくのだった。




