84話 中州の攻略に向かいました!
エルフたちは、俺が作った肉串を次々と口に運んでいった。
「皆、美味しそうに食べてくれているな」
「はい! ヨシュア様の作る料理は絶品ですから!」
イリアは笑顔で言った。
「これも、イリアたちがヘルアリゲーターを倒してくれたおかげだよ。燻製にすれば、彼らの保存食にもなるだろう」
肉は十分にある。数日は彼らの腹を満たせるはずだ。
しかしいつまでもこうしてはいられない。
安心して暮らせる恒常的な拠点を造り、自給自足できるようにしなければ。
肉を分けたことで、俺たちへの警戒心も相当解けてきているはずだ。
ここはモニカに頼んで、エルフたちを新拠点に導こう。
だが、最初に俺たちに嫌疑の目を向けてきたエルフ、近衛騎士のアルベルトが俺の前に立ちはだかる。
半裸で、口元に肉汁を付けながらアルベルトは言う。
「ふっ! こんなもので私たちを懐柔をしようなど無駄だぞ! 私たちは誇り高きエルフ! ただの肉串一本で、心は動かされぬ!」
「じゃあ、二本目なら動く」
メルクはすかさず二本目を差し出した。
「ふ、ふふ、ははははは! 私がこんなもので心が惑わされるわけない! ……はむっ……こんなっ、美味しい肉に騙されたりはせん……騙されはせんぞぉおおお!」
だが、二本目を遠慮なく頬張るアルベルトの声に、耳を傾ける者はいない。
メルクは三本目をちらつかせ言う。
「三本目食べたいなら、静かにする」
「くっ! くそぉ! この誇り高きアルベルトが!」
アルベルトは泣きながら、肉串を口にするのだった。
「これで皆、モニカの話を聞いてくれそうだな。モニカ……?」
「はふっ……あ、ご、ごめんなさい!」
モニカは頬を大きく膨らませながら言った。口には肉がいっぱいのようだ。
「食べてからで大丈夫だよ……早速だが、皆に道具や武器を配りたい。しかし、それだけでは皆、安心して暮らせないだろう。だから、防壁と家を作りたい」
肉をごくんと飲み込むと、モニカは答える。
「ヨシュア様の住まいのような場所を作る、ということですか?」
「そういうことだ。だが、少し場所は工夫しないと」
ミノタウロスの力は恐らく、並の防壁をも打ち砕く。
さっきミノタウロスの赤子モーが見せた突進力から考えれば、それは明白だ。
だから、ただ防壁を囲むだけでは心もとない。
ここは、ミノタウロスが突進できない環境を造る必要があるだろう。
水の中なら、どんな生き物でも足は遅くなる。それを利用しよう。
「幸い川も近い……堀を作りたいが……」
時間がかかりすぎるか。その間にミノタウロスが来たら、本末転倒だ。
「まずは武器を作ろう。そして、先ほどの中州を攻略するか」
「先ほどの? しかし、あそこはヘルアリゲーターが大量に」
イリアが言うが、俺はエルフたちに視線を向ける。
「これだけのエルフがいるんだ。モニカの弓の腕前は見ただろ。すぐに攻略できる」
「確かに……」
エルフは弓の名手と聞く。ここには百名以上のエルフがいるし、攻略は容易い。
「そうと決まれば、早速弓を配るか」
「え? 今から作るのでは?」
首を傾げるイリアだが、俺は手に弓を出す。
「来る途中で、すでに生産を始めていた。とりあえず五十張はあるが、十人もいれば十分だろう。矢ももう百本あるし」
木製の弓をヘルアリゲーターの皮と骨で補強した複合弓。即席だが、威力が大きく、狙いも定めやすい。あとは、エルフたちの腕次第だ。
「モニカ、弓の腕に自信のありそうな者を集めてくれるか……うん?」
アルベルトが物欲しそうにこちらを見つめている。目を輝かせ、まるで子供みたいだ。前のめりとなり、じわじわと近づいていく。
「わ、渡すから……」
「ゆ、弓ぃいいいいっ!! 弓! 弓!」
アルベルトは弓を両手で掲げ、怪しげな踊りを披露しだした。
他の者も弓を受け取ると、皆でぐるぐると回って奇妙な踊りを真似する。
儀式のような動きに、俺たちはぞっとする。
「と、とりあえず皆、中州の攻略に向かおう。モニカ、皆の指揮を……」
モニカに言おうとしたが、モニカも同じ風に踊っていた。だが、俺たちの怯えるような視線に気づいたのか、はっとした顔をする。
「……はっ! こ、これは失礼を!」
「モニカ。中州の攻略に向かおう。ヘルアリゲーターを駆逐する」
「はい!」
俺たちはエルフと共に、先ほどフレッタの隠れていた中州へと向かうことにした。
フレッタも弓を手にやる気満々だ。
河岸に沿って南下すると、先ほどの中州が見えてくる。
「よし。見えたな。距離は、ここからで大丈夫そうか?」
俺が言うと、アルベルトが声を上げる。
「ふはははは! ここからなら、赤ん坊でも当てられる! 私は矢を撃ったことは一度もないがな!」
「す、すごい自信だな。だけど、葦が茂っていては、弓の威力を十分に発揮できない」
矢が葦で防がれてしまうだろう。
するとメルクが言う。
「私とアスハで橋まで呼び出す。出てきたところを倒すと良い」
「いいのか?」
「ヘルアリゲーターぐらいなら、もう怖くない。アスハ行く。アーマーボアと同じ感じで行く」
メルクの声にアスハは頷き、空へと飛び立った。
そのままメルクは俺が先ほど架けた橋へと向かい、そこで天を仰ぎ遠吠えた。
よく響く吠え声に、葦原がざざっと揺れた。
同時にアスハは中州の葦原すれすれを飛んだ。
それに釣られるように、ヘルアリゲータが葦原から飛び出してくる。
アスハはそれを躱しながら、メルクのいるほうへ誘導するようにゆっくり飛行する。
これで、三十体以上のヘルアリゲーターが橋へと誘き寄せられた。
全てのヘルアリゲーターが橋まで出ると、アスハが急上昇する。
「よし、今だ! あのワニに、矢を放て!」
俺の声に、エルフたちは矢を一斉に放った。
その矢は次々とヘルアリゲーターに命中していった。外れるほうが珍しいぐらいだ。
しかも、比較的柔らかい腹部に当てている。地上すれすれであまり露出してない部分だが、見事に当てていた。
エルフたちには三本ずつしか矢を渡してなかったが、それで十分だったようだ。ヘルアリゲーターは続々と倒れ、残りは這う這うの体で川へと逃げていく。
「おお!! さすがは弓! これが弓だ!!」
アルベルトが天高く弓を掲げると、他の者たちも同じようにして雄たけびを上げるのだった。




