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83話 やっぱ肉が一番でした!?

「到着だよ!!」


 フレッタはそう言って、河原すぐ近くの森へと入った。


 特に何の変哲もない森。

 道具や建物も見えず、人気はない。


「……本当にここなのか? うおっ!?」


 森に入った瞬間、茂みががさがさと揺れたので声を上げてしまった。


 モニカがその茂みに向かって言う。


「私です。モニカです。この方々は私たちを助けてくださった方々。安心しなさい」

「殿下……ですが、彼らは人間。それに、その牛はもしや……」

「すべてお話します。だから、とりあえず武器を収めて出てきなさい」


 すると茂みから、続々と長い耳の者たちが現れた。


 出てきたのはエルフの男たちだ。

 皆、上半身裸の。腰にはぼろ布が巻かれている。中には、もう真っ裸と変わらない者もいた。


 彼らは武器……というのにはあまりに粗末な木の枝や石を持っていた。


 皆美しい見た目をして真面目な顔をしているが、その格好だけがあまりに残念だ。


 エルフの男の一人……美しい長い金髪の男が俺に言う。


「貴様は誰だ?」


 モニカがそれに答えようとするが、俺は先に答える。


「ヨシュアだ。お前たちに加勢しにきた」

「……我々の?」


 少しも警戒を解かない男に、モニカが声を上げる。


「アルベルト! 名乗りもせず、失礼でしょう!」

「殿下。私は王の騎士。私はまだ、あなたを王と認めたわけではない」


 男はアルベルトと言うらしい。

 とても綺麗な体つきと、クールな顔を持つ男……なのだが、腰に巻いているボロ布がその威厳を損ねている。


 ともかく、エルフの今の状況がつかめてきた。


 モニカの父であるエルフの王は今、行方不明。

 だから、モニカはまだ正当な王としては認められてないようだ。


 またエルフたちは非常に俺たちを警戒している。

 鬼人たちも最初はそうだったが、彼らはさらに保守的なようだ。エルフを語るとき、人との関りを断ってきたというのは有名な話だ。


 あるいは、ミノタウロスのモーが恐ろしいのかもしれないが。


 アルベルトとまともに話しても折れるとは思えないし……ここは実力行使と行くか。


 モニカとアルベルトが言い合うのを心配そうに見つめるフレッタに、俺は声をかける。


「フレッタ。腹は空いてないか?」

「え? それは減っているけど……」

「それじゃあ、飯にしよう。ほら、手を出して」

「こ、こう? わっ!?」


 俺はフレッタの手の上に、焼いたヘルアリゲーターの肉の串刺しを渡す。

 さらにその上から、俺はエクレシアたちエントがくれた葉を細かくしたものを振りかけた。


 フレッタは突如現れた目の前の肉に声を上げた。


「す、すごーいっ! お兄ちゃん、どうやったの!?」

「魔法だよ。さあ、食べて」

「うん! ……お、美味しい!!」


 フレッタは肉を口に入れた瞬間、目を輝かせた。


 もともとヘルアリゲーターの肉は旨い。それに加えて、癒しの効果のあるエントの葉の風味がアクセントに……なんだか俺も腹が減ってきたぞ。


「ふ、フレッタ殿下、そ、そんな得体の知れない男から受け取った物など!」


 アルベルトはそう言うが、いつの間にかフレッタの近くにエルフたちの子供が集まってくる。


「私もちょうだい!」

「僕も食べたーい!」

「わかったわかった。ほら」


 俺は次々と焼いた肉を、子供たちに配った。


 皆腹を空かせていたのだろう。ぱくぱくと美味しそうに肉を食べていく。


「さ、モニカも食べてくれ。腹が減っているから、気が立つんだ。満腹になれば、皆落ち着いて話せるようになる」

「そ、そうですね……ありがとうございます」


 モニカも肉を受け取ると、それを口にした。

 美味しいと至福そうな表情で呟く。


「で、殿下、みっともない!」

「アルベルト、と言ったな? お前も食べるか?」


 俺の声に、アルベルトは顔を真っ赤にする。


「わ、私が!? ふははははっ! この私が馬鹿にされたものだ! 皆、食べるんじゃない!」


 だが皆、肉を食べるのをやめようとしない。


「止めたい割には、動かないんだな? 本当はもう歩くのもやっとで、食べたいんじゃないのか?」

「くっ……そ、そんなことは……ないっ!」

「まあ騙されたと思って一口食べてみろって。皆の毒見のつもりで」

「くっ、わ、わかった! だが、これはあくまでも毒見だからな! 皆、私が倒れたらすぐにこの男を殺せ!」


 アルベルトは、周囲のエルフたちにそう言って、俺から肉を受け取った。


 そしてそれを恐る恐る口にすると……


「……お、おいじい」


 アルベルトは天にも昇るような顔をすると、ばくばくと獣のように肉に食らいついていった。


 メルクが呟く。


「皆空腹には勝てない。メルクもそう」

「よっぽど腹を空かせていたのでしょうね……」


 イリアは若干アルベルトの食いっぷりに引いているようだ。


 それを皮切りに、エルフたちは俺も俺もと近寄ってくる。

 俺はそんな皆に、肉を分け与えるがとても配るのが追い付かない。


「肉はいっぱいあるから、落ち着いてくれ! イリアたちも配るのを手伝ってくれ」

「はい!」


 イリアたちも俺から焼いた肉の串を受け取ると、それを皆に配った。


 エルフたちは皆、幸福そうな顔で食事を楽しむのだった。

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