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72話 ☆ロイグ、すべてを失う

ついに、ざまぁ回です!

本日一回目の更新となります。

「くそ、どいつもこいつも!! 戦え! 何のために、今まで高い金を払ってきたと思っているんだ!?」


 ロイグが叫ぶも、誰も踏みとどまろうとはしなかった。


 古参の騎士には見限られ、目をかけてきた貴族の新兵には逃げられるか……


 俺が去ってから騎士団に何があったのかは分からない。


 だが、ヴィリアンやソルムの言葉からすると、いい生産魔法師が見つからなかったのは確かだろう。


 歯車が狂い始めたのは、俺の追放のせいかもしれない。


「ロイグ。シュバルツ騎士団は終わりだ……お前のやったことは、大陸中に知れ渡るだろう」

「終わらん! お前を連れ戻せば、すべてが解決する!!」


 ロイグは剣を抜くと、馬を走らせ俺に迫ってくる。


「ヨシュア様、あの者はどうか私に」

「いや、イリア。あいつに俺を殺す気はない……俺が戦ってくる。モープたちを止めておいてくれ」

「かしこまりました。どうか……お気をつけて」

「わかった。行ってくるよ」


 俺は馬を降りると、手ぶらでロイグに向かった。


 するとロイグは俺を吹き飛ばしたいのか、さらに馬を速める。


「馬鹿にしやがって!!」

「お前こそ、馬鹿にしているのか? クラフト──スピアー」


 俺は簡単な木の槍を作成した。

 急に現れた槍に馬は棹立ちになり、ロイグを落馬させた。


 ロイグは何とか受け身を取ると、馬に罵声を浴びせる。


「……このバカ馬が!! 今までたらふく食わせてやったのに! お前まで、俺を愚弄するのか!?」


 馬はその言葉を理解したのかは分からないが、風のようにどこかへと去っていく。


 もはやロイグに味方する者は、誰もいなかった。


「ロイグ、もうお前の味方はいない。罪を償い、また最初から」

「俺に……俺に指図をするな!!」


 ロイグは顔を真っ赤にし、俺に斬りかかる。


「ずっと後方にいたお前に、この俺が負けるわけがない!!」


 俺は身を引いて、ロイグの攻撃を避ける。


 さすがに【武神】の紋章持ち。速い……しかし、怒りに身を任せているせいか、隙だらけだ。


「後方か……それはお前も同じだろ?」


 俺は攻撃を避けると、槍の()でロイグの顔を打ち付ける。


「ぶっ!?」


 ロイグは一回転し、地面に倒れた。


 部下が死地で頑張っているときに、毎日宴会三昧だったロイグ。こうして剣を振るうのも、数年ぶりなのかもしれない。腕が鈍らないわけがないのだ。


 しかしロイグは、それでも俺に剣を向けた。


「くそ! この俺がお前なんかに負けるわけがない!」


 ぶんぶんと剣を振るうロイグだが、全くかすりもしない。

 しかも今まで怠けていたせいか、もう息が上がってしまっている。


「はあ、はあ……くっそぉおおおおおお! なんでだ!? なんで当たらない!? 俺が本気を出せば、お前なんかに絶対負けないんだ! 俺は【武神】の紋章を持つ、選ばれた人間なんだ!」


 ロイグはなおも剣を振るうが、俺には届かなかった。


 すでにロイグの剣の腕前は有名無実だったようだ。これではソルムや訓練を重ねた部下のほうが、何倍も強いはずだ。


 慢心が、ロイグの可能性を腐らせてしまった……


 ロイグは涙目で叫ぶ。


「いやだ……いやだ! お前なんかに負けたくない!! 頼むから負けてくれぇええ!」


 今の言葉に、俺ははっとした。


 忘れかけていた昔のことを思い出した。

 五歳ぐらいのことだろうか。初めての決闘ごっこでロイグが俺に言い放ったセリフが頭に浮かんだのだ。


 あの時、ロイグは劣勢になるや、急に泣きわめいた。頼むから負けてくれと。俺はそんなロイグに、自分の腕を木剣で打たせた。


 それからしばらく俺とロイグが決闘ごっこをすることはなかった。互いに紋章を意識しだしてからは、ロイグは俺とまともに決闘をしようとはしなかったが。


 そんな昔のことを思い出したせいか、少し油断をしてしまった。俺の頬を、ロイグの剣がかすめる。


「や、やったぞ!! 俺の勝ちだ! ……ぶふぉっ!?」


 俺はすぐに槍を振り回し、ロイグの顎を殴った。


 何となくだが、こいつの今までの行動に合点がいった。

 俺を前線から退け騎士団の工房に押し込めたのは、自分の実力を際立たせるためだったのかもしれない。


 同時に、ロイグの子供のような姿に少し情も移る。


 シュバルツ騎士団ができる前、俺は魔王軍とだけ戦うため、一人南方へ行こうと考えていた。


 その時、ロイグは「お願いだから俺と一緒に戦ってくれ」と今のように泣いて懇願してきたのだ。


 やろうとしたことや、自分への仕打ちは許せるものじゃない……でも、ロイグが本当にやり直すつもりなら……


 俺はなんとか立ち上がるロイグに、情けをかけようと思った。


 しかしロイグは俺ではなく、後方へと走っていく。


 そこには放棄された荷馬車があった。その上には猫のような耳を生やした子供が、手足を縛られていた。


 虎人の女の子……グランク傭兵団の者だろうか?


 以前ドワーフを救った際、オークたちが北から逃げていたのを目にした。

 グランク傭兵団は今は魔王軍の味方。北で損害を受けていたのかもしれない。


 ロイグは虎人の子供を強引に降ろすと、その首に剣を当てこちらにやってくる。


「ヨシュア、降伏しろ!! でなければ、こいつを殺す!」

「ロイグ、もう悪あがきはやめろ!」

「お前の話は聞かない! 部下にお前の手足を拘束させ、目隠しをさせろ! そして芋虫のように地面を這いつくばってやってこい! そうすれば、こいつは解放してやる!」


 失望どころではない。もはや怒りのほうが強かった。


 ロイグは俺の性格をよく知っているから、こんな脅迫をするのだ。

 俺なら、あの虎人のために降伏すると。


「はははは!! どうだ!? 早くしないと、こいつの喉から血が噴き出すぞ!? 早く戻ってこい、ヨシュア!」

「見下げ果てたよ、ロイグ……もう、お前なんか知らん」

「黙れ! 素直に負けを認めて、はやく俺の前で膝をつくんだ! お前は、一生俺のために働けばいいんだ! お前はただの生産魔法師なんだから!」

「ロイグ。そうやってずっと、誰かを見下すことしかできないんだな……」

「見下す!? 当然だろう! 俺はやがて、人類の頂点に君臨するんだ! 【武神】を持つ選ばれた人間なんだ!」

「だから視野が狭いんだ。上を見てみろ」

「え? ……えっ!?」


 ロイグのすぐ頭上には、アスハが迫っていた。


 アスハは目にもとまらぬ速さで、ロイグの剣を槍で弾き落とす。


「ウィズ、ロイグの足元へ!」


 俺が叫ぶと、スライムのウィズがロイグの足元に滑り込み、転ばせた。


 また、イリアとメッテが俺の両脇から飛び出し、ロイグの手首を浅く斬りつける。


「痛ぇえええええ!」


 ロイグがのたうち回ると、虎人は解放された。


 人狼のメルクは俺の隣から飛び出し、その虎人の拘束を食いちぎる。


「もう大丈夫、安心する」


 虎人はメルクに礼も言わず、すぐに自分の手の爪で何度何度もロイグを切り裂いた。


「痛い! 痛い! やめてくれぇっ! 誰か助けてくれぇっ!」


 ロイグは子供のように泣きじゃくる。


 そんな光景を見て、メルクがぽんと虎人の肩を叩いた。


 すると虎人は何とか怒りを抑え、攻撃をやめる。


「痛い……痛いよお……誰か」


 俺は回復魔法をロイグにかけた。


 しかしあらぬ方向に曲がった手首の先はどうにも治らない。これでは剣も握れないだろう。【武神】の力は、もう発揮できない。


「ロイグ……」

「ごめんなさい、ごめんなさい……もうしません! ごめんなさい!」


 ロイグは地を這いつくばりながら、一人ここから逃げようとする。北か南かもわからないようで、南のほうへ向かおうとしていた。


 だがその南方から、天狗が飛んでくる。


「ヨシュア様、南から敵が!」


 天狗がそう叫ぶや否や、南から砂埃が舞い上がるのが見えるのだった。

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