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69話 布陣しました!

「ヨシュア様、全軍の展開が終わりました!」


 森を出た場所で街道を睨んでいると、イリアが報告に戻ってきた。


 今日のイリアは紫鉄の鎧に身を纏っているせいか、いつもより真剣な表情に見えた。


「ありがとう、イリア。これで迎撃態勢は整ったな」


 鬼人が四百、人狼が五百、森を背に翼を広げるように布陣した。


 戦力的には、右翼から左翼すべて均等に戦力を配置してある。


 前衛は紫鉄の鎧兜と盾で武装したゴーレムたちが十体ほど、等間隔で並んでいた。

 亜人たちの盾となるだけでなく、もしもの時は彼らに突撃してもらう。


 そのゴーレムの後方には、紫鉄の盾と鎧を装備した亜人が控えていた。

 さらに後方には弓とクロスボウを持った部隊がいる。


 メッテが俺に訊ねる。


「いつでも来いと言いたいところだが、今回は森の中に隠れないのか?」

「同じ手は二度も通用しないだろう。それにロイグ……敵の長なら精鋭を差し向けてくるはず。戦慣れした連中だ。森が少し騒がしいからと言って、それを大軍勢だと断じることはない」


 そもそも山林や城壁に旗を多く立て、軍勢を多く見せるという手は俺が騎士団にいた時も多用していた。


 碌に戦ったこともないヴィリアンや新兵ならいざ知らず、ロイグや戦慣れしている古参の兵が疑わないわけがない。


 もちろん、合わせ技にするなら効果もある。


 だからエントとスライムたちには森の中で旗を持ってもらっている。

 主力の後方にも予備兵力がいると思わせられるのだ。


 もちろん森の中を南北に動いてもらい、敵にいらない警戒をさせることも目的にしている。


「なるほど……そういうものなのか。敵を知っているから、そういう作戦を採るわけだな」

「ああ。戦慣れしている連中を送ってくるだろうからな。基本的に小細工は通用しない」

「では、互いの力が勝敗を分かつと……うむ、気持ちが高ぶってきたぞ」


 メッテの言っていることは何も間違っていない。


 戦術は重要だが、それよりももっと重要なのはどれだけ戦力があるかだ。


 どれだけの者が鎧や武器を持っていて、馬を持っているのか。

 誰がどれだけの経験を積んでいて、訓練をしてきたのか。

 これらを総合的にまとめたものが戦力だ。


 もちろん奇策が戦力的な劣勢を覆すこともある。


 ただ、それは珍しいから後世に伝わっているだけだ。それに何かしら相手より優れたものがあったことが多い。天候の急変や土地勘が勝利の要因になることもある。


 だから俺は、戦の勝敗は戦う前の準備で決まると思っている。

 生産魔法師という仕事はその要だと信じて、今まで仕事をしてきたつもりだ。


 メッテたちが意気込む中、メルクが周辺を見ながら不思議そうに言う。


「そういえば、セレスたちがいない」

「モープたちは南に向かわせている。街道に出るようにね」

「あの、変な箱みたいので走るから?」


 メルクの言う変な箱とは、紫鉄の戦闘馬車のことだ。


 セレスたちモープには、あの馬車で南の街道に待機してもらっていた。

 中には、クロスボウを持った鬼人たちが乗り込んでいる。


 そしてもう一つ秘密兵器が戦闘馬車に紛れている。

 ……おまけでしかないけど。


「ああ。戦闘馬車は平地でこそ威力を発揮する。街道以上に走りやすい場所はない。彼らには、合図があれば北に突進してもらおう」

「なるほど。メルクもあれ乗りたかった」

「人狼でも動かせるだろうけど……でも、メルク。今日の君の役目は重要だ。頼んだよ」

「任せる。ちゃんと練習したから大丈夫」


 メルクには回復の杖を持たせていた。

 彼女には衛生兵として、戦場を駆け回って治療してもらう。

 ある意味、今回の戦いで一番重要な役目とも言えよう。


 スライムたちやエントにも、同じような役割を持たせている。


 森の中に野戦病院を設け、怪我を治療するのだ。

 エントの葉には傷を癒す力もある。

 スライムたちには負傷者の搬送を頼んだ。


 メッテは自信にあふれたような顔で言う。


「後方支援もばっちり。これなら何が来ても怖くないな! アスハたちも準備万端なのだろう?」

「ああ。今回戦になれば、彼女たち天狗が戦端を切るからな。メッテもよろしく頼むぞ」

「任せておけ。敵の飛行部隊は、私たちが片付ける」


 騎士団にも空を飛べる戦力がないわけじゃない。

 五十騎にも満たないが、ペガサスを扱う部隊がいる。

 

 メッテには特に弓の扱いに長けた鬼人を選抜してもらい、そのペガサス部隊を狙撃する部隊を編成させた。


「空も問題ないだろう……あとは……俺とロイグの話し合い次第だな」


 ここまで準備をしてなんだが、もちろん最初は話し合いをするつもりだ。


 俺がロイグと話し合い、もう一度、奴隷狩りをやめないか説得してみる。


 血が流れないのなら、俺が騎士団に戻ることもやむを得ないと思っている。


 亜人たちはもう、俺がいなくても十分に強くなった。

 道具も武器も作り方を教えたし、ドワーフたちもいる。


 俺がいなくてもやっていけるだろう……


 そんなことを考えていると、イリアが俺の手を握る。


「ヨシュア様……私たちがお供します。絶対に……絶対にヨシュア様を一人にはしません」

「イリア……」

「ヨシュア様は覚えておいでですか? この街道でのこと」

 

 イリアは街道に目を向けた。


 ここは俺とイリアが初めて出会った場所だ。

 あの時、俺は奴隷狩りに襲われているイリアを助けた。


「ヨシュア様は私のために戦ってくださった。私だけでなくここにいる皆のためにも……ヨシュア様がお望みなら、今度は私たちがヨシュア様のために戦います」


 イリアは俺に真剣な眼差しを向けて言った。


 周囲の亜人たちもうんうんと頷いてくれた。そうだと声を上げる者もいた。


「イリア……皆、ありがとう」


 メッテも力強く頷く。


「つまり、絶対ヨシュアは渡さないってことだ!」

「うん。ヨシュアはメルクのもの。もう離さない」


 メルクの声に、メッテが声を上げる。


「な! ヨシュアは私のものだぞ!」

「二人とも見苦しいですよ。真の夫婦とは、何も言わずとも他者には分かるもの」


 そう言って、イリアは俺に身を寄せた。


「あ、姫。いつもの反論するのをやめて、自分は大人ですみたいな雰囲気に切り替えたんですね」

「イリア。我慢している。我慢はよくない。メルクは我慢しない」

「そ、そんなことありません!」


 三人はその後、ああでもないこうでもないと口論し始めた。


 なんだか緊張が一気に解けてしまったな……でも、皆が俺を必要としてくれることは伝わってくる。


 俺だってイリアたちから離れたくない。

 これからも一緒に暮らしたいし、彼女たちを守りたい。


 ……戦うにしても戦わないしても、俺は必ず皆を守る。


 俺は、街道に現れた騎士団の斥候隊と思しき人影を見て、決意を新たにするのだった。

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