54話 登山の準備をしました!
「アンデッド……死なない存在か。そんなの、どうやって倒すんだ?」
メッテは首を傾げた。
「この前、イリアはダンジョンでスケルトンと戦ったのを覚えているな?」
「はい。とても怖かったですが……あ、あんなのがまた出てくるんですか?」
イリアが怯えた様子で言うと、メッテが口をぽかんとさせる。
「……姫に怖いものなんてあるんですね」
「今のは聞かなかったことにしますよ、メッテ」
そう答えるイリアの目は笑ってなかった。
「ま、まあ……見方によってはスケルトンより不気味かもしれないな……」
何しろ死体を使っているわけだ。
皮膚がただれていたり肉が見えている可能性がある……
「それ以上に、スケルトンなんか比べものにならないほどに強いだろう……なにせ痛みを感じないんだから」
竜なんて人間が百人いたって勝てるか分からない。
その竜が、痛みを感じることのないアンデッドになるのだから、その強さはいかほどか。
メッテが難しそうな顔をする。
「痛みも感じない……怯ませたり、弱らせることはできないということか。例えば、デビルスネークの毒を使ったりは?」
「毒の類は、アンデッドに効かない。だが……」
俺はエクレシアに目を向ける。
「ど、どうしたのだ、ヨシュア。そんな、真剣な眼で見られては……」
「ご、ごめん。ただ、エントの葉がやつには通用すると思って。やつらは、回復魔法に弱い」
「そういうことか……もちろん、我らエントは協力するぞ」
「ありがとう、エクレシア。あとは、メルクの杖も使える」
俺の声に、メルクは狼の姿のまま、そういえばと杖を天幕に取りに行った。
そして人間の姿となり、杖を持ってくる。もちろん服を着て。
メッテはますます分からないといった顔をする。
「……回復魔法は人を癒すんだろ? それがどうしてアンデッドに効くんだ?」
「アンデッドの肉体を癒す……つまり、生前の肉体に戻すということだ。もちろん、完全には戻すことは不可能だが」
俺が言うと、イリアが閃いたような顔をする。
「なるほど! 痛みを感じさせるわけですね?」
「ああ。それも不完全にしか直せないから、痛みが持続する……聖属性の魔法ならなんでも通用するんだがな。そういえば、エクレシア。他に傷を癒すような植物はないか?」
エクレシアはうんと頷く。
「わらわたちの葉と同じような効果を持つものだな。そういった花粉を出す花を知っている」
「それじゃあ、それも集めてくれるか? あとは……どうやって近づいて、竜に攻撃を加えるかだな」
山高くまで上ってきたと言うことは、空も難なく飛べる。
攻撃は、黒い炎……闇属性を纏わせた火炎か。
元はファイアードラゴンだったのかもしれないな。
まず接近するだけでも大変だろう……俺の魔法じゃ炎は防げないし、バーニッシュのように会話で油断を誘える相手でもない。
「とすると……」
「メッメー! 今日は北までハイキングに行くっす!!」
俺の視線の先には、セレスとモープたちがいた。
今日は呑気にハイキングだそうだ。
モープの毛は火に強い。
これを上手く利用して、防具を作るとしよう。
俺はまだ伸び切ってないモープから毛をもらうと、早速防具を作成した。
そうして出来上がったのが……
「おお! なんだ、この布は?」
メッテは全身を覆うような一枚の布を羽織り、驚く。
「ローブだ。フードも付いているから、竜と戦う時はそれも被ってくれ」
「ふむ……雨避けにも使えそうだが……なんというか、これで火を防げるのか?」
「いや、それは最後の防火手段だ。本命はこっちだ」
俺は皆に、もふもふとした毛の塊……ではなく、モープの毛を張り付けた木の盾を見せる。
「モープの毛を使った布で三重に巻いてある。さらに、その上から毛をそのままつけてみた」
メッテは、盾の上でごろごろとするメルクを見て言う。
「な、なんだか盾というよりは、まるで布団だな」
「戦いが終わったら、そうしてもいいかもな……まあ、それもあくまでも回避が間に合わない時の手段として使ってくれ」
「分かった。その口ぶりからすると、私はついていくのが決定のようだな!」
「ああ、メッテ、イリア、メルク。お前たちには付いてきてほしい。エクレシアは悪いが……」
エクレシアは首を横に振った。
「わらわも得手不得手は理解してる。今回ばかりはわらわたちエントは、足を引っ張ってしまうだろう。留守を任せてくれ」
「頼む」
「だが、そんな少数で良いのか? とてもじゃないが……」
「いや、彼らにもついてきてもらうよ……」
「うん? これは!?」
エクレシアは俺の視線の先にあるものを見上げて、声を上げた。
「け、毛むくじゃらの巨人……こいつらは?」
「中はただのゴーレムだよ。モープの毛を被せたんだ」
「な、なんだ……新しい魔物が現れたのかと思ったよ」
エクレシアはほっとする。
モープの毛布を被せたゴーレムが十体。皆、モープの毛を使った盾も持っている。
こういう時だからこそ、彼らの力を借りたい。
「それじゃあ、行くとするか!」
イリアたちはおうと応えてくれた。
俺たちは天狗の案内で、彼らの村へと向かうのだった。




