53話 天狗たちを助けました!
「ほら、どうだ?」
新しい人工の翼に、天狗たちは戸惑っているようだった。
俺は村に戻ると、三十体程の天狗の翼をつくった。
おかげでこの前倒したアロークローの羽は全て使うことになってしまったが……
でも、天狗たちにとっては足に等しい存在。
とても、そのままにしてはおけない。
天狗たちは不安そうな顔をしながら少しずつ翼を動かすと、やがて速度を上げ宙に浮いてみせた。
皆、驚くような顔をするが、やがて一体の天狗が地上に降り、俺に頭を下げた。
「感謝します……まさか、命を助けていただくだけでなく、翼まで作っていただけるとは」
他の天狗も皆、俺にお辞儀した。
前のアスハと名乗った者と違い、彼らは流暢に喋れるようだ。
とすると種族は同じでも、違う部族だったりするのかもしれないな。
だが、それは違った。
天狗は不安そうな顔で訊ねてきた。
「もしや……以前、若君をお救いくださり、翼を直してくださった方でしょうか?」
「アスハ、と名乗る天狗なら、きっとそうだと思う」
「やはり……若君を救ってくださり、感謝いたします」
天狗は声を震わせると、他の者たちと一緒にその場で跪いた。
この前救った天狗は、彼らの長だったようだ。
「いや、気にしないでくれ。それよりも、魔物に襲われているのか?」
「ええ。我らは山の上に住処を構えておりましたが、ある日、空を飛ぶ竜に襲われましてな……」
「竜、か。その上に緑色の肌をした者は乗っていたか?」
「いました。ですが、彼らは枝葉のようなもの……見たこともない、大きな竜が我が村を襲ったのです」
「大きな、竜……」
竜族は魔物だ。
しかし魔王軍にはあまり協力せず、緩やかな同盟関係にあると言われている。
竜族では小型のワイバーンですら、魔王軍に進んで協力しようとはしない。
だから魔王軍との戦いで大きな竜を見ることはまずない。
「そうか……色は分かるか?」
「おどろおどろしい、黒色をしておりました。黒い瘴気に覆われ、黒い炎を吐き出しておりました」
「ダークドラゴンか……でもあれは、瘴気なんかには覆われてない」
しかし瘴気──闇属性の魔力を周囲に展開する魔物はいる。
その代表が、アンデッド系の魔物。
この前のスケルトンとは別に、グールなど人間の身体が腐ったような魔物がいる。
スケルトンのように召喚魔法で呼び出されるアンデッドもいれば、死体に闇魔法を掛けられアンデッド化させられた者もいる。
もしかすると、ドラゴンのアンデッドも存在するのかもしれない。
天狗が泣きながら続けた。
「このままでは……我が村は全滅です。我らは遥か北方にひっそりと住む天狗に助けを請おうと考えたのですが……」
「途中で、オークたちにやられ、人間にも捕まりそうになったわけか」
イリアが口を開く。
「ヨシュア様……彼らを、どうにか助けられないでしょうか?」
すると天狗が首を横に振る。
「ありがたい……実にありがたい申し出です。でも、あなた方を危険な目に遭わせるわけにはいきません……とてもではないですが、あいつは」
「ですが、このままでは死を待つだけです! せめて、この村まで逃げてください!」
「しかし、そうすれば奴がこの村に……」
俺は天狗に言った。
「いや……俺に策がある。やつらがアンデッドなら……」
「本当ですか!? ……どうか、どうか村をお救いください!」
天狗は声を震わせ、俺の足にしがみついた。
俺はこの後、ドラゴン討伐のため準備をするのだった。




