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47話 魔王軍に襲われました!

「ヨシュア、何か落ちてくる」

「あれは……天狗!?」


 俺はそう声を上げた。


 約一週間ほど前、アロークローが畑に襲来した際、その死骸を横取りした天狗……ということまでは分からなかったが、天狗という種族であることは分かった。


 でも、メルクが「あの子」というからには、この前俺たちが見た天狗なのかもしれない。


 天狗は真っ逆さまに、ぐったりとした様子で落ちてくる。意識はないようだ。


 このままじゃこの泉に落ちて溺れてしまうだろう。そもそも衝撃で死んでしまうかもしれない。


「ウィンド!」


 俺は風魔法を天狗が落下するであろう位置に吹かす。


 天狗はふわっとクッションに包まれるように、俺の吹かした風で浮いた。


 そのまま俺は、風魔法で天狗をこちらまで引き寄せた。

 

 岸まで寄せると、メッテがその天狗を受け止める。


「ヨシュア。こいつは、以前獲物を横取りした天狗だ……だが、いったいどういうことなんだ」


 天狗はやはり、俺たちが以前見た天狗で間違いないらしい。


 しかし、天狗に目を奪われていると、空から新たな魔素が来るのが分かった。


 見上げると、そこには翼を生やした竜に乗る、緑肌の者が。


 オークか……しかもワイバーンに騎乗している。

 

 俺も魔王軍との戦いで、いくらかこの組み合わせは目にしたことがある。

 いわゆる、竜騎兵と呼ばれる者だ。

 ワイバーンを乗りこなすのは大変なようで、魔王軍では上流の者しか乗れないようだ。


「おらおら、待てや鳥頭!? ……ああ、なんだあ!?」


 オークは俺たちを見て、ワイバーンを滑空させる。


「おうおう、人間じゃねえか。他にもなんかいるようだが、南から逃げてきて道に迷っちまったのか? 残念だったな、俺たちはまだまだ北の城を落とすぞ!」


 その言葉から分かるのは、魔王軍が南の人間の都市をどこかしら陥落させ北上してきたということだ。


 人間と魔王軍の攻防は一進一退だが、魔王軍がだいぶ押してきているのかもしれない。

 シュバルツ騎士団や、力を持ち始めた騎士団が富を得ることに執着し始め、魔王軍との戦いにあまり積極的でなくなってきたのも原因だろう。


 以前のアロークロー襲来は、この魔王軍北上の影響もあるか。


「オーク、だな。俺たちは……亜人は特に魔王軍と争うつもりはない」


 本音を言えば……俺は故郷を焼き払った魔王軍を許せない。

 自分と同じ思いをする者がいなくなるよう、魔王軍と戦ってきたんだ。いつからか完全に後方要員となってしまったが。


 でも、俺の過去はイリアたちに何ら関係ない。

 俺は、イリアたちに幸せに暮らしてほしい。敵を作らせたくはないんだ。


 だが、オークはゲラゲラと笑う。


「争うつもりはねえだと? こっちからすりゃ、亜人も人間も変わりやしねえ! いや、亜人なんてのは人間よりも最悪だ! 俺らの血も入ってるなんて、本当に気持ちわりい!」


 オークは軽蔑するように、イリアたちに目を向けた。


「まあ、俺たちの玩具にしてやってもいいんだぜ? そしたら、人間の血も薄まるだろうしな! ひゃははは!! あ、男はいらねえから!」


 そう言うと、オークは斧槍をぶんぶんと振り回し、ワイバーンを急降下させた。


 俺を斬るつもりらしい。


「死ねや、人間!! ぎゃっ!?」


 オークは突如、ワイバーンから滑り落ちてしまった。


 地面に落ちるオークの首には、矢が突き刺さっていた。


「なんと他愛ない。達者なのは口だけか」


 呟いたのはメッテだ。


 その手には、弓が握られていた。

 オークを射止めたのだ。


 イリアはそんなメッテを見て、声を上げる。


「メッテ、お見事です!」

「いや、姫。ヨシュアの弓のおかげですよ!」

「それは当然でしょう!」


 乗り手を失ったワイバーンが何やらぎゃあぎゃあと叫ぶ。


 すると、空から新手のワイバーンがやってくる。

 皆、鎧を身に着けたオークが乗っていた。

 十人程の竜騎兵隊のようだ。


 オークたちは、俺たちを囲むようにワイバーンを滑空させた。


 その内の一人、一人だけ兜に羽飾りをつけた隊長らしきオークが言った。


「逃げ場はない! 降伏するのだ!」

「降伏はしない。だが、これ以上戦う気もない。お前たちが退くなら……」

「なら、死ね! 皆、やってしまうのだ!」


 隊長の声に、オークたちは斧槍を構え向かってきた。


「くそっ。マジックシールド」


 俺はイリアたちを守るように、マジックシールドを周囲に展開する。


 だが、その必要はなかった。


「ヨシュア様、お任せください!」


 イリアはそう言うと、刀で竜騎兵たちを次々と斬り捨てていった。

 メルクも爪でオークの喉を切り裂いていく。

 二人とも、オークの斧槍を全て躱して。


 メッテも天狗を地面に寝かせると、目にもとまらぬ速さで弓矢を撃ち続けた。


 戦いは任せて大丈夫そうだな……よし。


 俺はそんな中、天狗に回復魔法を掛ける。

 目に見えて、いくらか深い傷があったからだ。早めに治療してやりたかった。


 二分もしなかっただろうか、オークたちは瞬く間にやられていった。


 最後の一人となった隊長のオークは、目を丸くする。


「な、な! お前らは一体!?」

「勝負!」


 そんな隊長に、イリアは刀を向けて走った。


 斧槍を構え、オークはワイバーンを進ませる。


「な、なめるなよ! はああああ!!」


 隊長のオークは斧槍を素早くイリアに振った。


 だが、そこにイリアの姿はない。


 オークは周囲を見回すが、やがて空を見上げ、目を大きく見開く。


 イリアは跳ぶと、オークの頭上にいたのだ。


「な、なんて速さだ!? ぐっ!?」


 オークはワイバーンごと、イリアによって縦に真っ二つにされた。


 着地したイリアは刀の血を振り払い、鞘に納める。


 同時に、隊長の死体が地に落ちた。

 乗り手を失ったワイバーンたちは、一目散に空高く逃げていくのだった。


「ヨシュア様のお言葉を聞こうともせず……愚かな」

「姫、お見事です!」

「メルクより、イリアのほうが敵倒した。悔しい」


 メッテとメルクは、イリアの活躍を褒め称えた。


 しかし、イリアは真剣な表情のまま俺に言う。


「ヨシュア様、その方は……」

「さっきから回復魔法をかけているから、傷はもう大丈夫だ。でも、意識は戻らないな……」


 天狗は、このオークたちにやられたのだろう。

 だとすると、この山の上に天狗たちの住処が……?


「……色々気になるが、魔王軍が近くに来ているのは確かだ。村も危ないかもしれない。皆、一旦戻るぞ」


 俺はオークたちの武装を回収し、その遺体を燃やすと、天狗を抱え急ぎ村に戻るのだった。

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