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45話 ☆ロイグ、狂う

 コビスの命を受けた商人は不眠不休で馬を走らせ、四日ほどでシュバルブルクに到着した。


 そしてすぐにロイグとの謁見を申し出て、騎士団の重役であるヴィリアンに居城を案内された。


「ヴィリアン殿……なんだか随分と、城がさっぱりしましたな」


 商人は城の廊下に、以前見た豪華な調度品が見当たらないことに気付く。


 それ以前より、シュバルブルク全体、また、城に人が少ない事も気になっていた。

 大通りに活気がなく、商店は軒並み閉まっていたのだ。


 ヴィリアンがそれに答える。


「来る遠征のため、備えておりましてな。節約ですよ……ところで、ガイアス殿が討たれたとのことですが、まことですかな?」

「え、ええ。そこから、我らの事業もおかしくなり……あなた様のいとこ、バーニッシュ様もお亡くなりに」

「あのバーニッシュが!? やつは魔法大学の優等生……本当なのですか?」

「え、ええ……火に焼かれ、死んだと」

「【火魔法師】が、火に? ……そんなに亜人は強いのですか?」

「はい……皆、武器を持ち始めまして。どうやら人間が協力しているようなのです。ガイアス殿を討った亜人を率いているのは、ヨシュアと名乗る人間だったそうで」


 ヴィリアンは顔を青ざめさせる。


「よ、ヨシュア? まさか、あのヨシュアが亜人のもとに……」


 すでに、ヨシュアの生産魔法が人並み外れた領域に達していた、というのはヴィリアンも知るところだった。


 亜人の武器はヨシュアが作っているのではと恐れたのである。


 ヨシュアは奴隷狩りに反対し、騎士団をやめた。亜人に味方する可能性は十分にあると考えたのだ。


 商人はだくだくと汗を流すヴィリアンに訊ねる。

 

「ヴィリアン殿、何かご存じで?」

「……いや、何も。きっと人違い……そのヨシュアという名前は、団長には話されないほうがいいでしょう」

「は、はい」


 そうして商人は、ヴィリアンと共に団長の執務室に入った。


 するとそこには、部屋の中央にうずくまる男が。


「……ヨシュア、何度言ったらわかる!? そうじゃない! 包囲には時間がかかる! ……何? それでは兵の被害が大きいだと!?」


 男は一人ぶつぶつと呟くと、今度はふははと笑う。


「心配いらん! 俺が先陣を切れば犠牲など出ない! 戦は俺に任せておけばいいんだ! お前は後ろで武具を作っていればそれでいい! 俺はもう、お前に負けるような男じゃない!」


 商人は、その光景にぞっとした。

 傷だらけの壁や床に向かって、男は一人で問答していたからだ。


 男──ロイグはそんな商人に気が付くと、ぎろりと睨む。


「……誰だ?」


 その声に、ヴィリアンが答える。


「この方は、コビス様の使いの者でございます」

「コビス……コビス? 誰だ、それは?」

「お、お世話になっている商人の方です」

「コビス……ああ、コビスか。ガイアスはどうなった?」

「じ、実はガイアスが戦死したようです……」

「ガイアスが……あれが死んだか」


 ロイグはやがて、ふははと笑い始めた。


「どいつもこいつも、本当に役立たずだ! まあ、無理もない。この騎士団は、俺が立ち上げたのだ。俺以外、雑魚だ。そなたもそう思われるだろう?」

「は、はい」


 商人は、ロイグの言葉にとりあえず頷いた。


「それなのに、どいつもこいつも俺から逃げやがって……特にヨシュアのやつめ……あいつがいなくなって、俺は……俺は!!」

 

 ロイグは急に怒りだすと、壁をばんばんと蹴り始めた。


 すると、ヴィリアンが声をかける。


「だ、団長、ヨシュアへのお怒りはごもっともです。ですが嬉しい報せが。コビス様が我らにお金を提供してくれるそうなのです!」

「金……金だと? どこだ? どこにある!?」


 ロイグが睨むので、商人はすぐにコビスから預かった金貨入りの袋を差し出した。


「こ、こちらです!」

 

 ロイグはその袋を奪うように掴み取る。

 そしてすぐに中身を床にぶちまけた。


「金……よし、金だ……コビスとやらには感謝すると伝えてくれ」

「は、はい……ロイグ様、もしまだお金が必要のようでしたら、コビス様の依頼を聞いてはいただけないでしょうか?」

「何!? さらに金が手に入るのか!? どういう話だ?」


 商人は、エティゴブルクに亜人たちフェンデル同盟がやってきたことを話した。


 そしてコビスの望むエティゴブルク奪還、フェンデル同盟討伐の要請と、報酬について伝えた。


「……つまるところ、兵を出せばさらに金を出すということか?」

「は、はい! そのお金の倍、また捕虜にした亜人につきましても高値で買わせていただきます! 何名でも!」

「分かった。その話、受けよう……ヴィリアンよ。城の兵三千を率い、エティゴブルクに向かえ」

「わ、私がですか?」

「お前が先遣隊だ。俺も遠征から本軍が帰ってきたらすぐに向かう。それともどうした? 亜人を恐れているのか?」

「ま、まさか……かしこまりました」


 ヴィリアンもヨシュアの存在は恐ろしかった。

 しかし、生産魔法でいくら優れていようと、己と騎士団の武技には勝てまいという自信があった。


 この四日後。

 シュバルブルクから、兵三千が南方へ向け発つのだった。


 だが資金不足で食事の質は悪く、量も少なかった。

 ヴィリアンはそれに不平不満を口にする者に体罰を加え、更に兵の士気は落ちる。


 ついには脱走兵が出るなど、進軍は思うようにいかないのだった。

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