42話 穴が開いてました!
畑を作ってから三日が経った。
この三日間は、ここに来てからずっと忙しかったのが嘘みたいに平和な日々だった。
俺はその間、武具だけでなく、漁や農業、採掘などのための道具を作ったり、モープの毛とヘルアリゲーターの皮で皆の布団を作った。
同時に、畑を柵で囲んだり、天幕を小屋に改築したりもする。
食料を保管する倉庫をつくったりもした。大量に手に入ったアロークローの肉などを冷凍させるため、氷魔法で内部を凍らせた石造りの部屋も造ってみた。
おかげで、最近は毎日美味しい焼き鳥が食えている……羽は矢羽根に利用するなどした。
武具も道具も、設備も揃いつつある。すでに、フェルデン村はちょっとした町とでも呼べるような規模になってきた。
今は、モープの毛で服を作っていたところだ。
というのも、イリアとメッテが、メルクのような人間の服が欲しいと頼んできたからだ。
この前作ったメルクの服は、デビルスネークの蛇皮と黒魔鉄を組み合わせたローブだが、これは魔法師が着るもので一般的な人間の服とは言えない。
だからシンプルなシャツとズボンを作ることにした。
モープの毛は真っ黒だが、少し削ると白くなる。
それも考え、ズボンやスカートは黒、シャツは白にして色を分けてみた。
さすがに全身黒、または白だと、ちょっと寂しいからだ。
加えて、アーマーボアやヘルアリゲーターの皮を使って、ベストを作ったりもしてみた。
もちろん、下着のほうも男女ともに、色々なサイズを作ってある。
まあ皆、なんだか下着は着けたがらないようだが……
「ど、どうでしょうか? ヨシュア様?」
イリアは俺の作った服を着て、そんなことを言った。
白いシャツに、黒いスカート。
庶民的な格好だが、今まで野性的な毛皮を着ていたので、なんだか見違えた。
もともとスタイルもいいからか、何を着ても似合いそうではある。
「うむ。こういうのも悪くないな」
そう呟くメッテも同様に、シャツとスカートでびしっと決まった感じだ。
身体が引き締まっているし顔もクールだから、とてもしっかりしているように見える。
実際はそんなことないが。
「おおーなんだか変な感じ」
メルクも今日は人の姿だ。
シャツとスカートを着て、その上からローブを羽織っている。
なんだか、魔法大学の学生みたいな感じに見えるな。
俺は三人に向かって言う。
「皆似合ってるよ。他に、作ってほしいタイプの服があれば言ってくれ。簡単なドレスとかも作れる」
「ドレス、ですか……ヨシュア様、私、それも着てみたいです!」
「私もだ!」
「メルクもー」
三人は皆、すかさず言った。
女の子はやっぱおしゃれが好きな子が多いだろうからな……色々、服も作ってあげるとしよう。
この村には、もうそれだけの余裕がある。
モープの毛はだいぶ早く伸びるようで、刈っても一か月もすればまたぼさぼさになるのだ。
モープ一体で布団五枚は作れる量の毛が取れるし、もう繊維に関しては心配ない。
あえて言えば、染料が欲しいといったところかな。
「分かった。でもせっかくなら、染料を手に入れてからにしよう。白と黒じゃさすがに寂しいからな」
「わかりました! 染料を手に入れたら、またお願いします」
イリアがそう言うと、メッテもメルクも「今度でいい」と言ってくれた。
「いいのを作るよ。それじゃあ、俺は石材のほうを見てくるよ。量によっては、そろそろ城壁を拡張しようと思うんだ」
「では、私も、ご一緒します!」
俺はイリアと一緒に、石の集積所に向かった。
ゴーレムが採石場で掘りだした石材を、スライムたちがここに積み上げていく。
もうだいぶ集まっている。すでにこの集積所が、城壁のように見えるほどに。
「よしよし。今度は西か南に城壁を造ってみるか。あと、家も石造りにしてもいいかも」
「石は頑丈ですもんね。なんだか、安心しそうです」
「ああ。でも、木は木で温かみもあるからな。どっちも組み合わせてみるよ」
あとは道を舗装してもいいかもしれない。
その前に、下流に向かって下水道を作るべきだろうか。今は肥溜めにしてあるが、エントの葉がある今、肥料は必要ない。厠も一緒に作ってみようか。
……なんだか、自分がこうして街づくりに参加するのは楽しいな。
やがては大都市にまで発展したりして。
少なくとも、シュバルブルクよりは立派な街にしてみたい。
もちろん、豪華なものを並べたいとかそんな意図はなく、皆が幸せに暮らせるようにだ。
村の今後にあれこれ期待を膨らませていると、突如、東の塔から煙が上がる。
見張りに教えておいた狼煙だ。他に、作っておいた鐘や太鼓も鳴らしているようだ。
イリアはそれを見て呟く。
「何か現れたのでしょうか?」
「ああ。橋の近くか採石場で何かあったか……ともかく、向かってみよう」
「はい!」
俺たちは馬で、急ぎ塔へと向かった。
すると、向こうからも鬼人が乗った馬がやってくる。
「姫、ヨシュア様! 採石場のゴーレムがいきなり五体に増えて……しかも、争いあってます!」
「なんだって?」
突如ゴーレムが分裂することはない。
もしかしたら、岩を掘っている間に新たな人形石が掘られたのかもしれない。
鬼人は深刻そうな顔で続ける。
「小さいほう……恐らく俺たちの味方のゴーレム二体が劣勢です!」
「分かった、何とかする!」
俺は馬で橋を越え、すぐに採石場の近くへと至る。
するとそこには、俺が作ったゴーレムが一方的に大きなゴーレムに殴られているのが見えた。
敵は三体ほど、しかも皆大きい。
「イリア……また、前の頼めるか」
「お任せください、ヨシュア様!」
俺とイリアは馬を下りると、すぐにゴーレムの元へと走った。
すると、敵の一体が俺を叩き潰そうと、腕を振り上げる。
「吸収!」
俺はすぐさま、ゴーレムのその腕を吸収し始めた。
後方に岩を放出させながら、ゴーレムの体を削り、その核である人形石を露出させる。
「イリア、今だ!」
「承知しました!」
ゴーレムの胸に赤黒い石が見えると、イリアはすぐにそれを両断した。岩はすぐさま地面に崩れていく。
もちろん、人形石はすぐ回収した。
もう一体はそんなイリアを殴ろうとするが、俺が間に入ってその腕を吸収する。
赤黒い石が見えるかどうか、そんなタイミングでイリアはまた人形石を斬った。
二体目のゴーレムも、これで崩壊した。
そして最後の三体目は、俺の作ったゴーレム二体がその両腕を抑えてくれた。
イリアはもう人形石の位置が分かっているのか、俺が吸収する前にゴーレムの胸ごと人形石を斬るのだった。
がらがらと最後のゴーレムも形を失っていく。
よし。二体目も三体目も、人形石をしっかりゲットできたぞ。
「ふう。イリア、さすがだ」
「いえ、ヨシュア様のお力です! それより、人形石のほうは……」
「ああ、六つの欠片を全て回収できた。これで、六体のゴーレムが作れる。あるいは、一つはもっと細かくして、小さなゴーレムを作ってもいいかもな」
イリアなら、砕かぬようにさらに細かく斬ることもできるだろう。
「ともかくお手柄だ。ゴーレムたちも、よく耐えてくれたな……うん?」
俺の作ったゴーレムたちは、岩場のある部分に体を向けていた。
そこには、穴が……地下へと続く階段があるのだった。




