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40話 畑を作りました!

「あんまりない」


 村に帰り、収穫を地面に広げていると、メルクはぽつりと呟いた。


 グランク傭兵団が去ってから、俺たちは北の畑を探ってみた。


 メルクが鼻を利かせ、周囲を探ってみたが……

 ほぼ収穫済みだったのか、魔王カブの実が見つかった程度だ。


 それも、二百個程。

 育てるにしても、しばらくは種を増やすことに専念する必要があるだろう。


「まあ、最初はこんなものでいいんじゃないか。魔王カブはそんなに育てるの難しくないし」


 魔王カブは、魔王領で品種改良されたカブだ。

 一説によれば、魔王自身が改良したから、魔王カブなのだとか。本当かは知らんが。


 この魔王カブは、大気中に浮かぶ魔力の源である魔素を吸収することで、早く大きく成長する。


 食べれば扱える魔力が増えそうだが、成長にその魔素を消費しているので、そんな効果はない。

 つまり、成長が早く大きく育つだけのカブというだけだ。


 そして肝心の味だが……これがとっても苦い。

 人間はよっぽど飢えていないと、口にしない食べ物だ。


 ただ暑くても寒くても少しの水で育つので、育てやすいのは魅力的だ。

 埋めれば一か月ぐらいで収穫できるようになるのも嬉しい。

 

 コビスたちは、この魔王カブを奴隷の食料にしようと考えていたのだろう。


「……それに、麦も手に入ったしな」


 俺はグランク麦を袋から出してみる。


 麦は真っ黒で、なんだかあまり食欲が湧く色ではなかった。


 すると、メッテが呟く。


「……これ、本当に育つのか? 真っ黒だぞ?」

「俺も農業は詳しくないから分からないが……確かに麦っぽくない色だな」


 俺が呟くと、隣にエントのエクレシアがやってきた。


 今のエクレシアは、樹の巨人ではなく人間の姿だ。

 村にいる時は、だいたいこうして人間の姿でいることが多い。


「ほう……見たこともない植物だな」


 メッテがそれに答える。


「グランク麦なるものらしいが、偽物か腐っているのだろう。きっとヨシュアは騙されたんだ……全く、お前ってやつはお人好し過ぎるぞ」

「いや、メッテよ。これは腐ってなどおらん。確かな、生命力を感じるぞ」


 エクレシアの言葉に、俺は訊ねる。


「なんか分かるのか?」

「ああ、わらわたちはエントだ。動物を見るのと同じように、木々や草花のことも分かる。これは強い植物だ」


 エントは自分たちの暮らしやすいように、森が失われぬように、森の植物を管理しているという話を聞いたことがある。


「なるほど。なら、育つかな? 畑をつくろうと思ってさ」

「埋めさえすれば、手はかからないだろう。それに、わらわたちの葉は植物を癒し、健やかに成長させる力を持つ。いつも何枚かは落ちるし、畑に撒くとしよう」

「そうか、そりゃ助かる。じゃあ、早速、畑を作ってみるか」


 俺はそう言って、村の南に向かった。


 川にほど近い草原。

 ここなら、万が一、干ばつが続いても水を撒けそうだ。


「ここにしよう……まずは、草を除去する必要があるよな。焼くか」

「焼く!? とんでもない! そんなことをしなくとも、わらわたちに任せるといい。草をどかせばいいだけだろう?」


 呟くと、エクレシアがそう答えた。


「あ、ああ。あとできれば、土を柔らかくしてほしいんだ。埋めるには固いからな」

「そんなことなら、簡単だ」


 エクレシアは遠くにいたエントに手を振ると、皆、樹の巨人の姿のままやってきた。


「どれぐらい、草をどかせればいいのだ」

「あ。今、杭を打つよ」


 俺は農地にしたい敷地に杭を打ち、区切っていく。


 まずは試しに、川沿いの千べートルほどの土地を農地にすることにした。

 

「これでいいのだな? よし、皆、始めよ!」


 エクレシアがいうと、エントは体から光を発した。


 すると、草原の草が勝手に動き、徐々に東へと移っていく。

 さらにエントは自らの根で土を掻きまわす。


 二十分ほどしただろうか、草原に綺麗な更地が生まれるのだった。


 土はふわふわだし、エントが自分の葉を混ぜてくれたからか、なんだか暖かだ。


 ここで寝っ転がっちゃ駄目だよな……


 メルクは遠慮なくごろごろしているが、俺はちょっと恥ずかしい。


 それはさておき、人なら数日はかかりそうな作業を、エントはほんの二十分で終わらせてしまった。


「すごいな……さすがエント」

「ふふ、わらわたちの力が分かっただろう? これからこういった植物に関することは、わらわたちに任せるといい」

「そうさせてもらうよ。それじゃあ、皆で麦を植えていこうか」


 俺が言うと、イリアが鬼人や人狼に叫ぶ。


 どうやら、コビスによって農地で働かされていた者たちを呼んでいるようだ。


 そうして俺たちは、種まきを始めた。


「この一粒が万倍となりますように……」


 イリアはそう願いを口にし、グランク麦を一つ一つ優しく埋めていた。


 あのグランク傭兵団の長……ベイロンも大事に育ててくれって言ってたな。故郷の麦だからと。


 いつか、一面が綺麗な麦畑になったら、ちょっと見せてやりたい気もする。


 他の者たちも、わいわいと楽しそうにグランク麦を埋めていく。


 しかしその時、突如、黒い影が畑を覆うのだった。

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