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37話 ☆奴隷商、死ぬ

「くそっ!! 亜人共が!」


 エティゴブルクの館で、コビスは机を叩いた。


「私の商売を邪魔しおって……くそ、くそっ!」

「こ、コビス様、もう荷造りはできております。早く、ここを去るとしましょう」


 部下である商人の言葉に、コビスは声を荒げる。


「分かっておる!」


 コビスはエティゴブルクの建設に、巨額を投じていた。


 奴隷狩りの拠点とするだけでなく、将来的にはこの地の領主となるつもりだったのだ。すでにベルソス王国に働きかけ、爵位の創設を願い出ている。これにももちろん、お金をかけている。


 それが商品であり労働力である奴隷を奪われ、城を出ていかなければいけないことに、コビスはひどく憤慨していた。


 だが、一万の亜人の軍を前に、とても抵抗など不可能。


 しかも、亜人は以前の非力な亜人ではない。

 ガイアスやバーニッシュに付き従っていた兵は、亜人が武器を持っていると証言した。

 現にコビス自身も、今朝、矢羽根による傷を受けた。


「なんとかまた戻ってこなければ……この城は、一年、二年で放棄できるような資産ではない……」


 今までも南方各地で奴隷狩りを行ってきたコビスだが、ここまで大規模な拠点を築いたのは初めてであった。

 全財産の半分を注ぎ込み、更に奴隷狩りで巨額の富を築こうとしていたのだ。

 また、多数の傭兵を雇ったため、資金にあまり余裕がない。


「……そうだ」


 コビスは北方のシュバルツ騎士団のことを思い出す。


 ちょうど昨日、騎士団の使いの者がやってきたのだ。

 ガイアスの死に関して驚いていたが、それ以上にやたらとガイアスが捕えた奴隷の報酬を欲しがっていた。

 

 どうも金に困っていると、コビスは判断したのだ。


「あの者らは、一人で百の魔物を相手にできると聞く。背に腹は代えられん……金を払って、やつらに戦ってもらうか……」


 そんなことを考えていると、館に兵士が飛び込んできた。


「こ、コビス様! 亜人共の軍が城門のほうに!」

「な、何!? もうやってきたのか!?」


 確かに、フェンデル同盟を名乗る者たちは、即刻出ていくよう命じていた。


「気の早い奴らめ……まだ館の家具を運ばせておらん……」

 

 コビスは困ったような顔をすると、部下の商人の一人に麻袋入りのお金を渡した。


「お主、先にシュバルブルクへ馬を飛ばし、ロイグに出兵を要請せよ。この金を渡し、これの倍を騎士団のために払うこと、そして奴隷を高値で買い取ると言え。あとは、フェンデル同盟なる存在のことも伝え、亜人の脅威を報せるのだ」

「か、かしこまりました。しかし、コビス様は?」

「私はもう少し待つよう、亜人共に頼んでくる。あと一時間ぐらいは、猶予してもらうとしよう」 


 コビスはすぐに、エティゴブルクの城門へ向かった。


 すると、城の前には軍勢がいた。

 馬に乗ったのが百名。他は歩兵。総勢で、二千名程か。


 皆、猫のような耳を持ち、褐色の肌をしている。

 虎人こじん族と呼ばれる亜人だった。


 フェンデル同盟の一軍に違いないと、コビスはすぐに城壁の上で膝をついた。


「み、皆様! 遅くなって申し訳ない! もうすぐ出ていく! だが、亜人を全て解放したので準備に手間取っているのだ! 一時間だけ待ってくれ?」

「一時間? なんだ、随分と準備が良いじゃねえか? 俺たちが来ることを知ってたのか?」


 虎人の先頭に立つ男は、そう声を掛けた。


「え、ええ! フェンデル同盟の方々でしょう!? 朝も来られたので、きっとそうかと」


 コビスが言うと、男は首を傾げた。


「フェンデル同盟……? なんじゃそりゃ?」

「え、え? あなた方はフェンデル同盟の方々じゃ? 亜人の同盟の……」

「へえ、驚いた。そんなやつらがいるんだな……でも、俺たちは違う。グランク傭兵団っていえば、わかるだろ?」

「グランク……傭兵団」


 コビスは何かを思い出したような顔をする。


「こ、虎人……グランク傭兵団」

 

 グランク傭兵団は、南方で活躍する傭兵団だった。

 しかし、人間と魔王軍、どちらにも金次第で味方することで、評判は芳しくなかった。


 それでも彼らが雇われるのは、その身体能力のおかげ。

 動きの素早さは人間を凌駕するだけでなく、どんな魔物でも追いつけない。

 数々の戦場で、功を上げてきた者たちだ。


「思い出したようだな。三十年前、西であんたに村を焼かれたもんだよ。覚えてるか?」

「ぐ、グランク州のことか……話は知ってる! 何とも、悲しい出来事だった! しかし、私は何もやってない、きっと別人だ! 奴隷取引など、全く手を出したこともない!」

「よく言うぜ。さっき、奴隷を解放したなんて言ってたくせに」

「そ、それは……部下が勝手にやったんだ! 私は本当に知らん! だから許してくれ!」

「そうはいかん。せっかく魔王軍についてるときに、南方の都市を攻略できたんだからな。そこにあんたが近くにいるときた。復讐するには、今しかない」

「と、とすると、魔王軍が近くまで!? ま、待て、許してくれ、頼む!」


 コビスが懇願する中、グランク傭兵団は攻撃を開始した。


 梯子が城壁に掛けられ、城門は破城槌によってすぐに破壊される。


 戦おうとする奴隷狩りは誰一人いなかった。

 皆、裏口へ殺到し、逃げようとする。


 コビスもその一人だ。

 金塊の入った袋を抱え、裏口へと駆けこむ。


「どけ! 私の馬はどこにいった! お前たちは引き返して戦うのだ!」


 しかし、誰もその声を聞こうとはしない。


 そんな中、グランク傭兵団がエティゴブルクに雪崩れ込む。


「ひぃ! ゆ、許してくれ! っが!?」


 コビスはあっけなく、グランク傭兵団の長によって斬り殺され、金塊と共に倒れた。


 長がコビスの首を掲げると、傭兵団は歓声を上げる。


 その後、エティゴブルクとその周辺は徹底的に掠奪されるのだった。

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