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31話 大量の松明で捕虜を解放しました!!

 暗い森を進む俺たちの前に、メルクがやってくる。


「ヨシュア様、もう少しで人間のお家が見えてくる」

「そうか、教えてくれてありがとう」


 確かに、もう少しで森を抜けそうだ。

 森の向こうに夜空が見えてくる。


 すると、イリアが俺に言った。

 

「ヨシュア様、それでここからどうなさるのですか?」

「城を囲む。それだけだ」

「囲む……それだけですか?」

「ああ、本当に包囲するだけ。しかもこの暗闇だから非常に都合がいい。ウィズ、スライムたちを集めてくれ」


 俺の声に、ウィズはスライムたちを集める。全てで三百体ほどか。


「皆に、遠くからこの松明を配ってくれ。とりあえず二本ずつだ」


 俺はそんなスライムたちに、太めの木の棒を渡した。

 皆、消火作業でバケツを運ぶように、他の種族にも松明を配っていく。

 ただの枝ではない。これは石炭を括りつけた松明だ。


 皆、突然俺がそれを千本以上も出したものだから、驚くような顔をしている。


 まあ俺もここまで魔法工房に入るとは思わなかった……松明自体は、一秒で十本以上作れるが。


「これを二本持って、スライムたちは西から北を囲んでくれ。エントは東から……頼めるか? だが、ウィズとエクレシアだけは、俺と一緒に来るんだ」


 ウィズはすぐに体を縦に振ると、スライムたちに体を動かし指示を送る。


 スライムたちは、自分の体に二本の松明を立てかけた。

 なんだか、不気味な感じに見えるな……


 エクレシアも少しして頷いた。


「……仲間を解放するためだ。我慢できる。なんなら、二本と言わず、十本でも持とう」

「それは助かる。多ければ多い方がいいんでな」

「そうなのか?」

「ああ。今、作るよ」


 俺は即座に松明を量産する。


 流石に石炭が少ないので限界があるが、一人に約五本は持たせられるはず。

 エントは二百体。なので、千本も松明を持てることになる。


 スライムと合わせれば、千六百本だ。


 皆は、次々と松明を出す俺に、少し引いているような感じもした。


「よし、こんなものでいいだろう。火をつけるから、皆に回してくれ」


 俺は周囲の松明を火魔法で灯す。

 さらに灯りの付いた松明を持つ者が、周囲の者の松明に火を分けていった。


 その間に、俺はイリアとメルクに言う。


「鬼人と人狼は南から向かう。捕虜も一緒だ。ある程度したら、イリアとメルクだけ付いてきてくれ」


 この場にいる鬼人は三百五十人、人狼は五百人。彼らが二本ずつ持って、千七百本……


 つまり、皆で三千三百本、松明を持っていることになる。


 しかし、待ったをかけるように、小さな狼の姿のメルクが訊ねてくる。


「武器はなくていい? この火の棒だけで戦える?」

「大丈夫だ。俺たちは戦わない。というより、戦っちゃ駄目だ。何かあっても、すぐ南方に引き返してくるんだ」


 俺の言葉に、メルクだけでなく誰もが首を傾げた。

 しかし、イリアが「承知しました」と言うと、皆も頷き、それぞれの行動に移った。


 森を抜けると、城のほうから松明が振られているのが分かる。

 こちらに気が付いたのだろう。


 だが、彼らはまだ俺たちを、帰還してきたバーニッシュの部隊だと思っているはず。

 亜人とは夢にも思わないだろう。


 そうして進んでいると、やがて東西にも松明の火が広がるのが見えた。


 すると、城側の松明が急に、あわただしく動き出す。


 しばらくすると、だいたい二十本程の松明が動いているのが分かった。


 やはり、大した数はいなかったか。多くて百人だろう。


 対して、こちらの松明は三千以上。

 まあ、実際そもそもの数で上回っているはずだ。


 そんな中、俺は一人の捕虜を隣で歩かせ、城門へと向かった。

 

 俺を囲むように、二体のゴーレムを歩かせている。

 彼らは非常に威圧感がある。これからの交渉に打ってつけだ。


 またウィズとメルク、イリアも一緒だ。


 そして俺は、そのイリアに弓と矢を渡した。


「イリア、弓は扱えるか?」

「一応、訓練はしましたので、大丈夫かと」

「そうか。結構大事な役なんだが、俺が”イリア”と言ったら、俺と話している城門の上のやつに向け撃ってくれ。決して、当てないように。できればギリギリで」

「ヨシュア様がお望みとあれば、確実にそういたします」


 それから城に近づくと、その門は堅く閉じられていた。


「な、何者だ!? 一体、どこの軍だと言うのだ!?」


 塔からそんな声が上がった。


 見上げると、肥満体形の男が一人立っている。

 うっすらとしか分からないが、彼はコビスで間違いないだろう。


「俺は亜人……フェンデル同盟の特使だ!」

「フェ、フェンデル同盟!?」

「お前たち奴隷狩りに対抗するため結成した、亜人の同盟だ! 城内の亜人を一人残らず引き渡せ! さもないと、一万の軍でこの城を攻める!」

「い、一万!? な、なな、そんな馬鹿な!?」

「何が馬鹿だ? 一体、お前たちはどれだけの部族を襲ってきた!? 周囲に広がるこの火の海が、我らの心に燃え盛る怒りの炎だ! 愚かなバーニッシュも、我らの火に呑まれた!」


 俺は怒鳴るように告げると、一人の奴隷狩りに視線を送り、発言を促す。


「こ、こ、コビス様! 彼の言葉は本当です! バーニッシュ様と二百以上の兵が、十分もしない内に全滅! この城は今、一万の兵に囲まれています」


 コビスは奴隷狩りの言葉に黙り込んでしまった。


 四方を、三千の松明が囲んでいるのだ。

 少なくとも、自分たちが圧倒的不利なのは分かるはずだ。


 俺は更に叫んだ。


「さあ、どうする!? 全ての者を解放しこの地を去るか……それとも死を選ぶか!? まずは手始めに、このゴーレムたちに城門を破壊させてもいいのだぞ!」


 コビスは「ま、待ってくれ!」と声を震わせ、沈黙した。


 この態度を見るに、やはり城の兵が少数なのは確実だ。


 今コビスは、どうすれば命を保証してもらい、自分の財産を守れるか考えているのだろう。


 俺たちの要求は、この地を去り、奴隷を解放すること。

 つまり金品等は要求していないことになる。


 ならば奴隷を解放し、金品を持って逃げるのが一番。

 

 コビスはついに口を開いた。


「……分かった、奴隷は解放する! 皆この城に置いていくから、まずは我らを脱出させてくれないか!?」

「貴様たちの条件は聞かない! 今すぐに、城門から全ての亜人を解放しろ! 内部にも立ち入り、一人一人、全ての者を脱出させたか確認させる! この要求を受け入れるか、受け入れないか……それだけだ!」


 逃げる前に、城の亜人を殺すことも考えられる。

 まだ、やつらをいつでも殺せるという条件を保っておくのだ。


 コビスは少し間を置くと、悔しそうな口調で言った。


「わ、分かった、要求を飲もう……だが、約束してくれるんだろうな?」

「そちらこそ大丈夫なんだろうな? 急に城門を閉じたり、隠し事をしてみろ。こちらはすぐにお前を殺せる……イリア」


 そう言うや否や、イリアは矢を放った。


 びゅんという音が響くと、城門の上から「ひっ!」というコビスの悲鳴が上がる。


「わ、分かったから、やめてくれ! 要求は全て飲む! ……すぐに門を開け、奴隷たちを解放しろ! 全て、全ての奴隷だ!」


 コビスはやけくそ気味に叫んだ。


 すると城門が開かれる。


 やがて城からは、次々と亜人が出てくるのだった。


 イリア、メルク、エクレシアたちはそれぞれ自分の種族の全員がちゃんと出ているか、中にいた亜人たちに確認させている。

 最後にはメルクが城内をまわり、中の匂いを探って、解放されてない者がいないか確かめてくれた。

 

 だいたい三十分ほど経ったか。イリアが俺に報告した。


「間違いなく、全ての者を解放できたようです。死んだ者以外ですが……」

「そうか……遺骨も運ばせたいが、あまりもう時間もない」


 俺はうっすら、空が白み始めるのに気が付く。


 イリアは首を縦に振る。


「十分すぎるほどの戦果です。引き揚げましょう」

「ああ……」


 俺は再び、城門に向け叫んだ。


「全て解放したか!?」

「ま、間違いなく、全員だ! 間違いなく!」

「そうか。ならば、今度は全員、城から即刻出て行ってもらおう!」

「す、少し待ってくれ! 我らにも準備というものがある! せめて食糧はないと、故郷に帰れん!」

「こちらの知ることか! イリア!」


 俺が言うと、イリアは再び矢を放った。


「ひ、ひい!!」

「攻めてもいいのだぞ!?」


 本音を言えば、ここでやってしまいたいところだ。

 だが、こちらは一人でも被害を出したくない。


 城壁にはわずかだが、バリスタのようなものも見える。無理はできない。


「出ていきます! 本当に出ていきますから!! お願いします、もう二度とここには来ませんから!」

「……我ら亜人は、お前たちほど愚かではない。その言葉を一度、信じてみるとしよう。全軍を引かせよ!」


 俺が叫ぶと、四方の火は南へと速やかに引き上げていった。


 コビスは城壁に頭を何度も打ちつけ、「ありがとうございます!」と連呼する。


 その声を背に、俺たちは南へと帰還するのだった。

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