27話 同盟を組みました!
イリアは、腰を抜かしたエントに刀を突きつけた。
しかしイリアが自分を斬る気はないと判断したのか、エントは素直に頭を下げる。
「わ、悪かった……早合点をしてしまったようだ」
元々保守的なエントだ。
自分たち以外を信用することは難しいのだろう。
俺は水魔法で、火をつけた草原を消した。
もともと威嚇だったので、油もつけてない。
すぐに鎮火できた。
イリアも刀を下ろして続ける。
「ヨシュア様の仰るように、通りたいなら通って構いません。ですが……南にいっても海があるだけ。あなたたちが住めるような森はない」
「それは分かっている……私たちは木々の匂いを感じ取ることができる。住めるような大きな森は、南にはない。ここより北だけだ」
俺は絶望したような顔のエントに言う。
「先ほど、仲間が攫われたと言っていたな? 相手は人間で間違いないか?」
「ああ。馬に乗った者たちだ。松明を持った者たち……そして一人、手から火炎を放つ者がいた」
奴隷狩りにも魔法師がいるか……
エントは樹の形をしており、その頭の部分には葉っぱが茂っている。
その葉には魔力が含まれ、よくポーションに用いられていた。
また、体である幹と枝は軽く頑丈で、上質な木材として使われる。
つまりエントの体は金になるのだ。
しかし森に入れば、エントにされるがまま。
だから奴隷狩りは森を焼き、攫っていったのだろう。
彼らに良心なんてものはない。
目に見える金になりそうなものを、根こそぎ奪おうとする。
エントは再び頭を下げた。
「いずれにせよ、お主たちは彼らとは違うようだ……早合点をしてしまった。申し訳ない。わらわたちは北に向かい、そこで襲った者たちと戦うとしよう」
去ろうとするエントに俺は言う。
「いや、俺たちもお前たちを襲った人間と戦っているんだ。ここは、撃退するために同盟を組まないか?」
「同盟……?」
「ああ。奴隷狩りを倒せば、お前たちも故郷の近くに戻れる。俺たちとしても、奴隷狩りをこの地から追い出したい……」
俺は勝手なことを言ってしまったと少し後悔した。
この村で、俺はただの客人に過ぎないのに。
だがイリアは俺に振り返り、頷いてくれた。
そしてエントに言う。
「ええ、私たちと一緒に戦いましょう。北の森は危険ですが、西の森にはそこまで人も来ません。そこでしばらく過ごしてください……あなた方には狭いでしょうが」
「わ、わらわたちを咎めないだけでなく、受け入れてくれるのか?」
「もちろんです。よろしいですよね、ヨシュア様?」
イリアが決めたことに反対する立場にはないが、俺としても大賛成だ。
人間が亜人を狩るのは、亜人に抵抗するだけの力がないから。
だから亜人が力を持てば、人間も奴隷狩りを辞めるはず。
力を持つというのは、単に道具や技術を手に入れるだけではない。
ばらばらの種族が協力することも重要だ。
まあエントが亜人かは分からないが……
「俺は賛成だ」
俺がそう答えるとイリアは頷き、エントに手を差し出す。
「共に戦いましょう……私はイリア。あなたのお名前は?」
するとエントは突如、姿を変えた。
そこには、長い薄緑色の髪の美しい人間のような女性がいた。
人間にすれば、二十代前半ぐらいに見える。
大人しそうな、静かな雰囲気の女性だ。
エントはこんな姿にもなれるのか。
「エクレシア……あなた方の慈悲に感謝する」
エクレシアはイリアの手を取るのであった。
この日、二百名のエントが仲間に加わる。
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「とすると、魔法師は一人か」
俺は城壁を積み上げながら、後方にいるエクレシアに答えた。
「ああ。他の者たちは数は多くても、あまり強くなかった。その男だけが別格だった……一瞬で、森を焦土に変えたのだ」
そこまでの火炎を出せるとなると、高位魔法を扱える者に違いない。
紋章も火魔法に特化した【火魔法師】の可能性が高い。
こちらが火魔法で対抗するのは無理だ。
となると、やはり頼りは城壁だな……
火魔法では石は燃やせない。
城壁の上にいれば、胸壁で身を隠せば助かる。
「それだけの魔法師となると、他の魔法が使えることも考えないとな……」
高位魔法は火だけでも、中位魔法は他の属性のものを使うかもしれない。
しかも俺たちは何度も奴隷狩りを撃退してきている。
その魔法師以外にも、多くの奴隷狩りを投入してくるはずだ。
そうなれば、優位に戦いを進められたとしても、必ず死者が出てしまうだろう。
速やかに敵を全滅させる必要がある。
俺には生産魔法しかない……生産魔法で立ち向かうんだ。
「ウィズ……ゴーレムとこの前の廃鉱で、あれを掘ってきてくれないか?」
スライムのウィズは俺の声で、すぐにゴーレムの元へと向かった。
あれで一気にやつらを仕留める……
俺は一人、奴隷狩りの軍隊と戦う策を練るのだった。
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