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山も負けてませんでした!

 俺たちはモープを追って、ついに山頂付近まで到達した。


 すでにセレスたちモープは高原で駆けまわったり、昼寝を始めている。


「ようやく涼しくなってきたな。それに天狗たちの姿も見えてきた」


 山頂に近くなるにつれ、天狗たちの姿が多く見られるようになってきた。


「おお、ヨシュア様たちだ!」

「こっちに来るのは久しぶりね!」


 畑で作業する天狗たちに、メッテが先ほど釣り上げた巨大なカイザーバスを両手で掲げながら挨拶を返す。


「そこの川でこいつを釣ってきた! さっそく捌こう!」


 天狗たちはその声に続々と集まってくる。


「一匹だけじゃない。せっかくだから皆で食べてくれ」


 俺は天狗たちに、魔法工房に保存していたカイザーバスを渡していく。そのままメッテと天狗たちはカイザーバスの調理に取り掛かるようだ。


「いいお土産になったな」


 イリアが頷く。


「ええ、喜んでくれたようでよかったです。でも皆、村でもよく見る顔ぶれなので、不思議な気分ですね」

「そうだな……俺たちと違って、天狗たちは村と簡単に行き来できるからな」


 俺が答えると、メルクは何かに気が付いたように周囲を見渡す。


「前はここまで畑大きくなかった」


 その言葉通り、以前俺たちが山に来た時にはなかった段々畑が見える。


 アスハがこくりと頷く。


「エクレシアたちエントの皆さんから、山の上でも育てられる作物を教えてもらったんです。すぐ育つ芋なんですが、これが結構美味しいんですよ」


 どうやら俺が知らないところでも種族同士で交流が進んでいるらしい。植物に詳しいエントは、農業関連で特に頼りにされるのだろう。


 イリアは山頂の横穴を見上げて言う。


「でも、山頂はヨシュア様が整備されて以来、あまり変わってないようですね」

「もう十分すぎるぐらい頑丈で快適ですから。村では布団や家具を分けてもらってますし、本当に豊かに暮らしています」


 アスハは満足そうな顔で言った。


 山頂には俺がかつて天狗たちの住処にと掘った横穴がある。中には部屋のような空間が無数にあり、ちょっとした地下都市のようになっていた。


 俺としても気に入ってくれて嬉しい限りだ。


 山頂への道と索道を整備しながら俺は言う。


「でも、住居から山の中腹に直接出れたほうが便利だから、今日はいくつか入り口を増やしていこうと思う。外敵ももういないし、入り口を山頂だけにする理由もないだろうから」


 その言葉にアスハはぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます、ヨシュア様。そうしていただけると、皆移動が楽になります」


 俺は索道を作り終えると、アスハに訊ねる。


「他に作ってほしいものはないか? 今日はいっぱい資材を持ってきたから何でも言ってくれ。それこそ村にあるような家も建てられる」

「私はたちはもう十分すぎるほど、生活が満たされています。どうか、お気になさらず」


 そう答えるアスハにメルクが返す。


「遠慮しない。ヨシュアは最近あまり作るものがないから、何か作るものがほしい」

「それは……あるかも?」


 確かに作れるものを無意識に求めている気はする……


 イリアもこう答える。


「本当に遠慮なさらないでください、アスハさん。別に作るものでなくても、村の私たちに何かしてほしいことがあれば」

「皆さん……それでしたら、そうですね……」


 アスハは目を瞑る。何か要望を考えているようだ。


 しかし、やがて難しそうな顔でうーんと唸る。


 メルクがぼそりと呟く。


「これは相当悩んでいるアスハ」

「それだけ今の生活に満足してらっしゃるのかもしれませんね……」


 イリアの言う通り、天狗たちは今の生活に満足しているのかもしれない。


 俺はついに辛そうな顔になったアスハに俺は言う。


「む、無理して考えなくても大丈夫だから。その内に何か思いつくかもしれないし。俺なら、いつでも行くから」

「申し訳ありません、ヨシュア様。せっかく来てくださったというのに……」


 深刻そうな顔で答えるアスハ。

 そんな大げさな……


 しかしアスハは、カイザーバスを調理するメッテの周囲に天狗たちが集まるのを見て、何か閃いたような顔をする。


 アスハは俺に切り出す。


「そうだ……一つ、相談があったんです」

「相談?」

「はい。別に競おうというわけではないのですが、最近、カッパさんたちの白砂島に同盟中の人がやってくるじゃないですか。私たち天狗の子供も先日島に行ったのですが、賑やかで羨ましいと皆口にしていました」


 イリアが頷く。


「最近の白砂島は村をも凌ぐ活気がありますよね! 海水場も人気ですが、名物のアイスクリームも相当評判みたいですし」

「はい。ですから、私たちの山にも人を呼び寄せられないかなと」


 アスハの言葉にメルクはこう答える。


「山でもアイスクリームを作る」

「真似ですか……それはちょっと」


 アスハは苦い顔で答える。


「ま、まあアイスクリーム自体は村でも作っているし、別に山でも作っていいんじゃないか。ただ、同じ物を作っても、皆が山に来るかまでは分からないな。山は涼しいから、冷えたものを皆食べたがらないかもしれないし」


 メルクはならと提案してくる。


「なら、今まで作ってきた山の索道で遊べるようにする。山から一気に滑れば面白い」

「それは……まあ、好きなやつもいそうだな。今日作った索道は物資運搬用だけど、もっと頑丈で安全な物を作ってみてもいいかも」


 俺が言うと、イリアは少し不安そうな顔で答える。


「私はちょっと怖いかもしれませんね……」

「イリアほど怖い存在はないから安心する」

「メルクさん、今何か?」


 イリアの声にメルクは何もないと答える。


「ま、まあ確かに好みが分かれるかもな。もう一つぐらい何か、山ならではの施設があるといいかも」

「山、ならではですか」


 再び考え込むアスハだが、今度はすぐに何かを思い出したようだ。


「そういえば島で思い出したんですが……以前、白砂島で星空で眺めましたよね」

「ああ。すごい綺麗だったな」

「ええ。ですが……私はこの山で見る星空のほうが、もっと綺麗に見えるなって」


 アスハの言葉にメルクもイリアも少し驚くような顔をする。


 アスハは慌ててこう答えた。


「ご、ごめんなさい! もちろん島で見る星空も綺麗でしたし、潮騒の音も本当に素敵で! 別に白砂島が悪いわけでは」


 それを聞いたメルクとイリアが首を横に振る。


「そうじゃない」

「ええ。アスハさんが言うんです。本当に山のほうが綺麗に見えたのでしょう」


 たしかにアスハが何かと比べることはあまりない。

 それだけこの山の星空に自信があるのだろう。


「なら、その星空が見えるような場所を作ってみるか……ちょうどカイザーバスの良い匂いもしてきたし、食事ができるようなお店があってもいいかも。テラスか何か作って」

「以前宮殿を建てる際に造った、空が見えるようなドームもいいかもしれませんね!」


 イリアの声に俺は頷く。


「ああ。早速、建ててみよう」


 こうして俺たちは山に人を呼び寄せる施設を作ることにした。

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