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24話 ☆ロイグ、あらゆる物を失う!

 ヨシュアが去って一か月が経った。


「ええい! ヨシュアはまだ見つからないのか!?」


 ロイグは騎士団の執務室で、机を叩いた。


 周囲にいたヴィリアンと側近たちは、体を震わせる。


 ヨシュアが出ていった日、シュバルブルクの門番は「外に行くなんて珍しいな」と声を掛けた。


 その時ヨシュアは、騎士団をやめるから南に行くと言い残していたのだ。


 そこでロイグは騎士団の人員を南方の諸都市に派遣し、ヨシュアを探させていた。


 どの都市も、馬なら一週間もあれば着くはず。それなのに誰からも連絡がないことに、ロイグはひどく憤慨していた。

  

「しかも、ガイアスのやつはどうなってる……何の報告も届いてないぞ」


 ロイグを悩ませていたのは、ヨシュアのことだけではなかった。


 奴隷狩りを手伝わせているガイアスから、連絡が途絶えたのだ。


 ガイアスが手伝っているのは、奴隷商人のコビス。


 コビスは南方で随一の奴隷商と言われ、要塞化した拠点まで有していた。そこで奴隷を取引したり、農場や鉱山で奴隷を働かせていた。


 ロイグはこのコビスと数か月前、自宅のパーティーで知り合い、そこで奴隷狩りが儲かると聞かされる。


 更なる富を得たいロイグは、コビスのもとでガイアスにその奴隷狩りを学ばせることにした。


 コビスからは強力な騎士ガイアス派遣の見返りに報酬をもらうことになっていた。それも今は当てにしていたのだ。


 そんなときだった。

 執務室の扉が叩かれる。


「伝令か!? 入れ!」


 しかしそこにいたのは、騎士団の者ではなかった。


 一人の銀行家と、複数の庶民だ。


「失礼いたします、ロイグ様。ズワルト銀行のコバンヌです。この度はよろしくお願いいたします。さあ、そこの壺と絵画だ。持っていけ」


 銀行家の声に、庶民たちは執務室のものを勝手に持っていこうとする。


「待て! それは俺のものだ! 何の権限があって持っていく!?」


 すると、側近の一人が止めに入った。

 ヴィリアンと親しい、新たに財務を任されたバッシュという男だった。


「お、お待ちを団長! 資金を作るため騎士団の備品を担保にするのです!」

「こ、これは、俺の物だぞ! 勝手に持って行かせるものか!」


 ロイグは庶民から壺を強引に取り返した。

 それを見た銀行家は、声を荒げる。


「これはどういうことですか、バッシュ殿? ロイグ様のお屋敷のものも含め、担保にしたいと……」

「なにぃ!? 何故、そんなことを許した、バッシュ!?」

「そ、そうは申されましても、銀行から金を借りるためでございます!」


 バッシュとロイグの言い合いに、銀行家は呆れた顔で言った。


「困りますねえ。あなたがどうにか貸してくれというから、こちらも融資することにしたのに」

「な、なんだと!? 貴様に貸してもらわなくとも、他の銀行が貸してくれる! さっさと失せろ!」


 ロイグは銀行家を怒鳴った。


「お、おまちを、団長! 今の我らにお金を貸してくれると言ったのは、彼らズワルト銀行だけなのです! 彼ら以外、誰も今の我らには貸してくれません!」

「嘘を吐くな! お前も俺に意見するのか!?」


 そう言ってロイグは、バッシュを蹴り飛ばした。


 それを見た銀行家は言う。


「……分かりました。では、この話はなかったことに」


 バッシュは去っていく銀行家に、必死にお待ちをと声を掛けた。


 そんなバッシュを、ロイグは蹴り続ける。


「この裏切者が! この無能が!」

「だ、団長、バッシュも反省したでしょう、これぐらいに」


 ヴィリアンはロイグにやんわりと言った。


 すると、バッシュはヴィリアンを睨む。


「そもそも、ヴィリアン殿がこの話を許可されたのではないですか! 団長には私から話すと! 銀行を探せと私に丸投げしたのも、あなたでしょう!?」

「な、なんだと!? お前も私を悪者にするのか!? 私は知ってるぞ! お前が故国の父に、騎士団の装備を横流ししていたことを!」

「な、なな! そ、それはあなたも同じでしょう! と、ともかく団長、今は!」


 ロイグはバッシュを蹴り飛ばした。何度も、執拗に。


「横流しだと!? この盗人が! どいつもこいつも無能な上に、俺の物を奪いやがって!」

「だ、団長、このままではさすがに……あっ」


 ヴィリアンがそう言うも、すでに遅かった。

 バッシュはもう死んでいたのだ。


 ロイグは顔を真っ赤にしたまま、ヴィリアンに言う。


「片づけろ……それと、新たな財務を」

「は、はっ」


 だが次の財務はどこからもお金を借りられないと、ロイグに報告した。

 それを辞めさせて任命した新しい財務もだ。


 そこに来てヴィリアンは、もはやズワルト銀行しかないとロイグに言った。


 もはや、ロイグはズワルト銀行に金を借りるしかなかったのだ。


 ロイグは自らズワルト銀行に行き、以前追い返した銀行家に頭を下げた。


「金を……貸してくれ」

「今頃になってですか? あれだけ当行を侮辱したのにも拘らず」

「す、すまなかった……そちらの条件で良いから、どうかお願いだ」


 ロイグは低く低く、床に触れるほどに頭を下げた。


 銀行家はそれを見て、小さく笑った。


「まあ、分かりました。私たちも鬼ではございませんから」


 そうしてズワルト銀行は、騎士団への融資を決めた。


 そもそもズワルト銀行は、暴利と取り立ての厳しい銀行として有名だった。

 もう破綻している騎士団へお金を貸してくれるのは、そんな銀行しかなかったのだ。


 翌日には、城と自宅からロイグの高価な私物が次々と運ばれていく。


 その様を見たロイグは、一人執務室で剣を振り回していた。


「くそがっ!! くそっ! くそっ!! くそぉおおおおおお!」


 執務室にはもう机と椅子しか残ってなかったが、ロイグはそれさえも剣で破壊してしまう。


 やがてはその剣も、壁と床を叩きつけている間に折れてしまった。


 これは宝石をはめ込んだ見た目重視の剣で、ヨシュアの作ったものではなかった。家が一軒買えるほどの金で、ロイグが買ったものだ。


「うぉおおおおおお!!」


 ロイグの咆哮が、空っぽになった城内に木霊するのだった。

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