239話 乱戦でした!
「あの光は──まさか!」
見えてきたフェンデル村の周囲には、青白い光が現れ始めていた。
イリアは落ち着いた表情で言う。
「すでに皆戦闘態勢を整えています」
「ええ。皆、あの程度のやつらにやられるようなやつらじゃない」
メッテも自信たっぷりに答えた。
メルクがある場所を見て答える。
「エクレシアたちが囲まれてる」
「ベルドスさんとモニカさん……それにヨモツさんもいます。きっと何かがあってあの場所に集まったに違いありません」
メルクとアスハの言う通り、エクレシアたちが村の外で孤立し囲まれていた。すでに戦闘状態にあるようだ。
一方でフェンデルや森でも、矢や魔法で迫る精霊に応戦している。こちらは壁や木々で上手く防げているようだ。
「まずはエクレシアたちと合流しよう」
俺の声に皆頷くと、戦いの準備を整える。
「少し荒くなるが、皆気を付けろ」
そう言って俺は、飛行艇を精霊の大群の中に突っ込ませる。
しかしある程度地上に近付くと、イリアとメッテが飛行艇を下りて周囲の精霊を攻撃し始めた。
飛行艇は抵抗を受けることなく着陸し、俺によって回収される。
「よし、行こう」
「露払いはお任せを!」
アスハが風魔法で精霊を薙ぎ払うと、エクレシアたちまでの道を開けてくれた。
その間を縫って、俺はエクレシアたちと合流した。
「エクレシア! 何があった!?」
「ヨシュア! すまない……キュウビを逃した」
木の根で戦うエクレシアが言うと、すかさずヨモツが口を開く。
「俺のせいだ……攻撃を止めてしまった」
俯くヨモツの顔はいつになく深刻そうな顔だった。
「いえ……外したのは私です。ヨモツさんは何も悪くありません」
モニカが矢を放ちながらそう言うが、ヨモツは首を横に振る。
キュウビに何か思うところは……当然あるだろう。皆の顔を見るに、説得を試みたはずだ。しかし、失敗してしまった。
ベルドスは斧を振り回しながら言う。
「過ぎたことを悔やんでも仕方ない! まずは見つけるのが先決だ!」
そのベルドスの言葉に頷く。
「誰か、キュウビの居場所は分かるか?」
「南……南に匂いが続いてる」
メルクは南に広がる草原を見て言った。
「南か……うん?」
俺は魔力を追う内に、大量の魔力の気配を南に感じた。それは次第に大きくなっているようで……
何か、大規模な魔法を使うつもりか。
「魔力の反応がある……急ごう」
それから俺たちは、精霊を蹴散らしながら南へと向かった。
城壁から亜人たちも進行方向へ弓やクロスボウ、兵器で攻撃をしてくれている。
だが、彼らも精霊を防ぐのが先決。
俺たちは、立ちはだかる精霊を前になかなか南へ進めない。
そんな中、城壁から声が上がる。
「誰かくる……あれは──グランク傭兵団だ!!」
その声に北西を見ると、森から飛び出してくる者たちが。
ラクダに乗った者たち虎人……先頭にはベイロンとネイアもいた。
メッテは意外といった表情で彼らを見つめた。
「あいつら、何故……」
モニカが答える。
「フェンデルに参加した虎人の方々が、トレア王に雇用された彼らに門のことを伝えてくれていたようで」
「もともと、虎人の村の様子を見に寄ると言っていたんだ」
エクレシアもそう答えた。
現れたグランク傭兵団は、次々と精霊たちを蹴散らしていく。
やがて軍勢の中から、ベイロンとネイアがこちらに駱駝を走らせてきた。
ベイロンはこちらの近くで駱駝を止めると、精霊を斬り捨てながら俺に顔を向けた。
「ようやく、お前らに借りが返せる日が来たな」
ベイロンがふっと笑うと、ネイアは呆れた様子で言った。
「素直に騒音が心配で来たと言えばいいのに……」
「う、うるせえ。単にリーセがグランク麦のパンが食べたいってうるさいから来ただけだ!」
「それなら、父上も食べたがっていたでしょう……ヨシュア、ここは任せろ。仲間があの村にいるんだ。絶対に、村には近寄らせん。別に、お前のことが何か……」
顔を赤らめるネイア。王国を出る前のことを思い出したのか。俺もあの日のことは朧気だが何故、彼女が恥じらうかは分かる。
だが今はそんなことより、二人が、グランク傭兵団が来てくれたことが何よりうれしかった。
「……ありがとう。どうか、力を貸してくれ」
俺が言うと、二人は満足そうな顔で頷き、フェンデルのほうへ走っていった。
ベイロンが声を上げる。
「やつらは城壁すら上れねえ! 攻撃を受けないようにだけ注意しろ! 歩兵隊は城門を中心に守れ! 騎兵隊は俺と一緒に、暴れまくるぞ!!」
その声に、グランク傭兵団は歓声を上げた。
仲間の虎人たちが住んでいるということもあるだろう。それでもフェンデルのために戦ってくれるのは嬉しい。
イリアが言う。
「ここは彼らに任せ、急ぎましょう」
「ああ」
そうして俺たちは、再び南を目指した。
村とグランク傭兵団のおかげで、俺たちを襲う精霊が少なくなり、南へ進めるようになった。
しかし、突如メルクが足を止める。
「皆、待つ。別の匂いが近づいている」
「この地響き……まさか、あいつか!?」
エクレシアは地面に視線を落とすと皆に声をかける。
「以前戦ったキラーワーム……だけじゃない。キングバグも来る!」
以前、ノワ族たちが住むノワール村の北で戦った、蟲の魔物たちだ。
キラーワームは人の大きさもあるミミズのような姿。キングバグはダンゴムシのような姿だが、城と見紛うような大きさだ。
キュウビは彼らを使い、狐人の里を襲わせていたが……まだ戦力を温存していたか。
空からや森からなら分かる。しかし地中深くからはさすがに感知が遅れる。
精霊たちすらも押しのけ、蟲たちが現れる。
彼らは四方をぐるりと見回すと、こちらに気付き突撃する。
「来るぞ! ……戦い方はすでに分かっている。この爆弾で」
「ヨシュア様。そちらを」
「え?」
イリアは俺から爆弾を受取ると、刀を持ってキングバグへと走る。
「イリア、無茶──っ!?」
大きく跳躍したイリアは、キングバグの頭を刀で斬りつけるとそこに爆弾を放り込む。
そのままイリアはデスワームの大群に斬り込み……
まもなく、どかんと爆発が起きた。
頭を焼かれ倒れるキングバグ。
以前よりも早く、しかも小規模な爆発でイリアはキングバグを倒してみせた。
爆発が小さかったおかげで、イリアや俺たちには被害はない。
メッテは声を震わせる。
「我らがイリア様とはいえ……さすが……」
すでにイリアの戦闘技術は他の追随を許さないものになっていた。
俺が見た中でも、最強の戦士になっている。
キュウビがどのような手を使おうと、もはやイリアや俺たちを止めることはできないはずだ。
「さすがだ! オレも遅れは取らぬぞ」
ベルドスはそう言って、デスワームの大群へ突進した。
俺たちもその後を追い、南へ向かうのだった。




