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238話 交渉決裂でした!?

 ヨシュアたちが飛行艇でフェンデルへ帰還する途中。


 ヨモツは、フェンデルの西の草原にいた。


 遠吠えを聞いたからだ。それは、キュウビとヨモツの間で決められた一種の信号のようなものだった。


 今から行く、というキュウビの連絡をヨモツは受けていた。


(キュウビが来る……魔王様とは決別したということか)


 当然、フェンデルの者たちとも戦闘になる。


 すでにヨモツは、このフェンデルで家族と生きていくことに決めた。キュウビと共に行く気はない。


 しかし、ヨモツには後ろめたさがあった。キュウビを、一人にしてしまうことに。


 だからヨモツは、ここでキュウビへの説得を試みることにした。自らの位置を遠吠えでキュウビへ報せた。


 城壁や周囲の森は、フェンデルの警備が行き届いている。二人で話すには、草原しかなかった。ここには能天気なモープがたまに来るぐらいだ。


 だがそもそも、このフェンデルの警備網を掻い潜れるかも心配だった。いや、キュウビなら……


 風で草が擦れる音が聞こえると、声が響く。


「ヨモツ……」

「来たか、キュウビ」


 ヨモツが後ろに振り返ると、そこには狐がいた。キュウビだ。


 キュウビはヨモツにこう話す。


「魔王様は、計画を下りるようだ」

「聞いたよ。俺も、下りることにした」


 ヨモツはきっぱりと答えた。


 一方のキュウビは全く驚く様子を見せない。


 そればかりか、ふははと笑い声を漏らす。


 キュウビは知っていた。そもそも計画の成就を心から望んでいたのは自分だけということを。


 ヨモツには家族が残されていて、魔王は世界を大きく変えることに不安を漏らしていた。


 一人だということは分かっていたのだ。


 ヨモツもそのキュウビの気持ちは分かっていた。だから、それについて弁解するつもりはない。正直に告げることにした。


「俺は、家族と共にこのフェンデルで生きることにした。魔王様も、このフェンデルと協力することにした」

「……何がお前たちを、このフェンデルに惹きつける?」

「誰をも受け入れてくれる。俺だけじゃない。亜人や魔物の区別なく、望む者なら誰しもだ……もちろん、お前もだ」


 ヨモツはキュウビに近寄ると、必死に訴える。


「俺とお前は、単に同じ計画を成し遂げようとする者同士だった。だが、これからは……ここで共に暮らし、友人となろう」

「友……人?」


 キュウビは耐えきれなくなったのか、大きな笑い声を響かせる。


「友人だと!? まさかお前がそのような言葉を口にするとは!? これはおかしい!」


 げらげらと笑うキュウビだが、ヨモツは真剣な顔を崩さない。


 やがてキュウビは笑うのを止め、遠くを見つめる。


「まさかお前がここまで丸く……いや、分かっていたよ。お前が実は誰よりも家族や仲間想いなのは……俺も、そうありたかった」

「キュウビ……一緒に来てくれるか?」


 キュウビはその言葉に、しばし沈黙する。


 だがやがて首を横に振った。


「俺はお前にはなれない。お前のように守りたい者はもういないんだ。ヨモツ──」


 キュウビが目を赤く光らせるのを見て、とっさにヨモツは目を瞑る。


 洗脳の魔法。自らを計画に強制的に参加させるつもりだ。


 そんな中、すぐに大地が揺れ、地面から木の根がキュウビに放たれた。


「おっと」


 キュウビはすぐ身を躱し、ヨモツから離れる。


「離れろ! こいつは私たちが捕まえる!」


 そう叫んだのはエクレシアだ。


 他にも亜人たちキュウビを囲うように現れる。


 ミノタウロスのベルドスは斧を、エルフのモニカは弓を構え、キュウビを包囲する。


「……オレたちを覚えているか?」


 ベルドスはそう問うた。


 ベルドスたちミノタウロスは人を恨んでいるところをつけこまれ、キュウビに操られた。それから亜人であるエルフたちと戦うよう仕向けられた。


 キュウビはふっと笑う。


「洗脳した相手は数知れず。いちいち一人一人、覚えておらんよ」


 モニカはキュウビを睨んで言う。


「今まで苦しめてきた方々のことを、覚えてはいないということですね」

「そうだ。人か亜人かぐらいの区別しかできん」

「あなたとは分かり合えそうもない……ここで死んでいただきます」


 モニカはそう言うと弓を引き絞る。


 しかしヨモツが声を上げた。


「待て! キュウビ……お前の計画はこれまでだ……俺は、この場で命を絶つ」


 ヨモツはそう言うと、腹に隠し持っていたナイフを自分の喉に突き付ける。


「っ!? よ、ヨモツさん、待ってください!」


 モニカを始め、皆がヨモツに思いとどまるよう言う。


「いや……俺が死ねば、キュウビの計画が上手くいく可能性は限りなく低くなる。実行に移しても上手くいかないことは、キュウビ……お前にも分かるはずだ」

「俺を脅すつもりか、ヨモツ?」

「いいや。俺はお前に、これ以上罪を重ねさせたくない……お前の計画の狙いは分かっている。俺も亜人や人は憎いが、フェンデルの者たちのような者もいる。彼らを害すことは駄目だと、心のどこかではお前も分かっているはずだ」


 自らの死を以て計画を諦めさせる。それがヨモツの狙いだった。


 しかしキュウビは言う。


「……死ぬなら勝手にすればいい。だが、お前にできるか? 家族などという足かせがあるお前に」

「見くびるな……っ?」


 勢いよくナイフを喉に突き刺そうとしたヨモツだが、突如手が止まる。


「……それ見てみろ。できないではないか」

「キュウビ、お前……まさか」


 キュウビはヨモツから顔を反らすと、フェンデルの者たちに目を向ける。


「腰抜け共に俺は負けぬ……まずは、お前たちを滅ぼさねばならんな──」


 そう言うと、キュウビはすっと姿を消した。モニカの矢が目前に迫っていたが、あと一歩のところで逃げられてしまう。


「くっ!」

「気にするな、モニカ。エントは地面と森を! 人狼たちは臭いでキュウビを──なっ!?」


 モニカは周囲に、いくつもの光の柱が現れることに気が付く。


 青白い光の靄が、突如膨大な人型を形成し始めたのだ。


 亜人たちは逆に人型に包囲されたことにざわめく。人型はそれからも現れ、フェンデルを包囲するように現れた。


 ヨモツが声を上げる。


「怖気づくことはない! こいつらは精霊だ。動きも鈍いし、お前たちの武器なら一撃で倒せる! だが、キュウビを発見しない限りは無限に現れる……なるべく早く、キュウビを見つけるんだ」


 その声に、皆おうと頷く。


 そうしてフェンデルとキュウビの精霊との戦いが始まった。


 ヨシュアたちを乗せた飛行艇も、ちょうどその光景が目に入る位置まで帰っているのだった。

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