235話 築造を始めました!
召喚石の建材を作り始めて二日目の朝。
「……これで、全部か」
俺は山のように積み上がった黒い建材を見ていった。
召喚石を四角形に石材に加工したもの。あとはこれを積み上げるだけだ。
「この規模になると、さすがに一斉に魔法工房では組み立てられない」
いや組み上げること事はできるだろう。しかし外に出した瞬間に崩れる可能性もある。
石材と石材の間を接着できるような素材も考えた。だがそれでは門として機能しない可能性がある。外側は漆喰や他の石材で補強するが、門の入り口となる穴までは障害物があってはいけない。
一応、石材同士を噛み合わせるための凹凸を設けてある。すでに普通の石材で実証済みだし、問題ないはずだ。
「一つ一つ組み上げていくか」
俺が言うと、ゴーレムやスライムたちが任せてくれと言わんばかりに前にでる。
メッテが言う。
「私たち鬼人ももちろん手伝うぞ!」
「ありがとう。もちろん俺も手伝うけど……そういえば基礎は」
俺が言うと、エクレシアが頷く。
「問題ない。我らエントとエルフでしっかりと掘っておいた」
「ありがとう……完璧だな」
目を向けると、底には深い竪穴がある。
その穴底には、ユミルらドワーフが石灰で白線を引いてくれている。ここに積めという目印だ。
「それじゃあ、組み立て開始だ!」
俺が言うと、皆おうと声を上げてくれた。
早速石材を運び出すゴーレムやスライムたち。もともと石切り場を任せていただけあって、手慣れている。
ドワーフたちはちゃんと設計図どおりできているか見てくれている。少しずれている場合などは自分たちで動かして調整してくれた。
この調子なら明後日……いや、明日には完成しそうだな。
一方で、フェンデル周辺や山の周辺では異変はない。いつ戦闘になってもいいよう同盟の皆で準備をしているが、いらない心配だっただろうか。
……いや、まだ何が起こるか分からない。
そんな中、俺はイリアがどこか不安げな顔で西を見ているのに気が付く。
「イリア、何かあったか?」
「いえ……ですが、昨夜からどうも変な臭いが鼻について」
「変な臭い?」
「トレアやダンジョンでも嗅いだのと近い臭いです」
「死臭やら遺灰の匂いか。まさか……アンデッド」
隣で鼻を動かしていたメルクが答える。
「……もっと変な臭いもする。嗅いだこともない……焦げたような臭いもする。西から流れてきている」
「……西?」
魔王ソフィスがキュウビの説得に向かったのは、西の古戦場だ。
俺とイリアは顔を合わせる。
「もしかすると西で何かあったのかもしれません……」
「だが、ソフィスに限って……」
もしキュウビがソフィスに反旗を翻したとしても、あのソフィスには勝てないだろう。
だがそれはキュウビも承知している。もしソフィスに挑むのなら、それは必ず勝てる見込みがあるからだ。
今思えば昨日、ソフィスはどこか不安げだった。
キュウビの説得が上手くいかない……そう考えているのかもしれない。
しかし今ここでソフィスを失うわけにはいかない。彼女はフェンデルと協力することを決めた魔王だ。
代替わりしては全てが水の泡となってしまう。
何より、キュウビが魔王を降せば、フェンデルや周辺の人間と魔王軍を滅ぼそうと考えるはずだ。
「……イリア。門は皆に任せて、俺たちで様子を見てこよう」
「そうしましょう」
そうして俺は、イリア、メッテ、メルク、アスハと共に西へと向かうのだった。




