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234話 材料を揃えました!?

「最初にヨシュアがフェンデル村の門を造ったときも驚いたが……」


 メッテは前にそびえる巨大な門を見て言った。


 城壁に使うような大きな石材で組み立てられた巨大な門だ。山の麓に完成したこの門は山の高さを超えている。

 その大きさの割には入り口は小さく、馬車が横並びで二台通れるような幅と高さしかない。


 これは召喚石の門の……レプリカ。


 召喚石で築くにあたって、俺はまず普通の石材で仮組みをすることにしたのだ。


 ユミルが自慢げな顔で言う。


「どうじゃ? まったくぐらつかんじゃろ。ワシらドワーフで試行錯誤してみたのじゃ」

「ああ。これなら召喚石でも大丈夫だ。だが、問題は……」


 その召喚石の加工に時間がかかっているということだ。


 召喚石を、建材のように加工するにはまず溶かす必要がある。


「俺の魔法工房の火でも溶けるが、あまりにも時間がかかりすぎて……」

「うむう。ワシらもその召喚石を火で燃やしてみたがとても」


 普通の火炎では溶けない。いや、魔王ソフィスの放つ岩をも瞬時に溶かす青い炎ですら溶けないのだ。


 だから、溶かすことができるのは俺だけ。


「ううむ……中まで火が通るから時間がかかる。かといって砕くのも……いや」

「おう。砕くぐらいなら、ワシらドワーフや鬼人でもできよう」


 ユミルがそう答えると、イリアもこくりと頷く。


「メッテたちの力ならどうにかなるでしょう」


 普通に金槌を振ったり、きりで穴を開けたりするのは難しい。それでもドワーフと鬼人の力ならどうにかなるか。


「よし。それじゃあお願いしてみようか」


 それからは鬼人とドワーフたちに来てもらい、召喚石を砕いてもらった。


 ソフィスも砕くぐらいなら多少はできるようだ。溶かすのは、やはり俺だけしかできないようだ。


 一番驚いたのはイリアか。イリアは刀で召喚石を目にも留まらぬ速さで細切れにしていく。


 一方ではウィズをはじめとしたスライムが少しも無駄にするまいと欠片を集めてくれた。アスハたち天狗も風魔法で集めにくい召喚石の粉末を集めてくれている。


「簡単に溶ける……これならあっという間にできるぞ」


 俺は四角い建材に加工した召喚石を外に積みながら言う。


 隣でメルクが呟く。


「おー綺麗。真っ黒で何だか格好いい」


 召喚石は真っ黒だ。こうして建材を見ると、黒曜石のようにも見える。


「これで門を組み立てたら、さぞかし存在感があるだろうな……」


 メッテもそう答える。


「ああ、完成が楽しみだ。基礎作りも順調のようだし、この調子でどんどん作るぞ」


 視線を横に向けると、そこには基礎となる穴を掘ってくれるエクレシアらエントがいた。


 エルフたちも慣れないながらもスコップなどを使ってそれを手伝っている。


 村からは、人狼やモープたちが食料を運んできてくれていた。海ではカッパたちも魚をたくさん集めてくれている。


 そんな中、ゆっくり大きな亀……亀人のフォニアも背嚢を背負ってやってくる。


「フォニア、来てくれたのか」

「差し入れに美味しい木の実をね」


 フォニアはそう言って、メルクに木の実を渡す。


 メルクは木の実を受取ると、こう答える。


「あとで皆に配ってくる。門はすぐに完成する。フォニアも見ていく」

「ありがとう。本当はそれが目的で来たのよ。飛行艇の次は何ができるかなって」


 フォニアはどことなくワクワクするような表情で言った。


「今まででも一際大きな建物だからな……楽しみに待っていてくれ」

「そうさせてもらうわ。それまで、私は寝させてもらうわね……疲れちゃった」


 近くの岩場で目を瞑るフォニア。


 それからすぐに、今度は狐……狐人のミリナとその兄弟、そしてその後ろから少し離れて歩くヨモツが見えた。


「ヨシュアさん! 皆! 狐人たちが集めた山菜とキノコをもってきたよ!」

「おお、ミリナ。もう少しで昼食だったんだ。ありがとう」


 俺がそう答えると、ミリナと兄弟たちは背負ってきた袋を次々と下ろしていく。


 それを見守るようなヨモツに、メルクが声をかける。


「ヨモツもきた。ようやく村から出れるようになった」

「……狼がうるさい。子を守るのは親の役目だ……それが、魔王様の私への最後の言葉だ」


 過去のことは忘れ、家族のためだけに生きる……ヨモツはそうしてこれから生きていくことを決めたらしい。


「いいお父さんになった」

「子供のいないお前に言われたくはない……」

「すぐにメルクも子供ができる。ヨシュアとの」


 そのメルクの言葉に、作業をしているイリアの視線が飛んでくるような気がした。


 ヨモツははあと息を吐くと、俺に顔を向ける。


「魔王様のためにも……キュウビのためにもなる。俺も、この門の完成を願っている」

「ああ。必ず完成させる」


 俺が頷くと、ヨモツも首を縦に振ってくれた。


 そうしてミリナたちは、再び狐人の里のほうへ戻っていった。


 メルクが言う。


「皆、門づくりに協力してくれている」

「ああ、皆何かしら力を貸してくれようとしている。おかげで作業も順調だ」


 建材だけなら、明日にも作り終わるかもしれない。


 そんな中、魔王ソフィスが黒い鎧からの報告に手を止めていることに気が付く。


 やがてソフィスは報告を聞き終えたのか、複雑そうな顔でこちらにやってきた。


「どうした、ソフィス?」

「少し……この場を離れてもいいでしょうか?」

「え? 作業は順調だから、別に構わないが」


 どうして離れるのか──イリアがそう言いたげな顔で、ソフィスをじっと見つめる。


 ソフィスはそれを見て重い口を開いた。


「……正直に申し上げます。偵察隊の報告で、キュウビの居場所が分かったのです。ここより西の古戦場近くに潜伏していると。私は、説得に向かおうかと」

「そうか……キュウビを説得できれば何も心配がなくなる。ここは俺たちに任せてくれ」

「ありがとうございます。必ずや、キュウビを説得してまいります」


 ソフィスはそう話すと、深く頭を下げた。


 それから西の空に向け、すっと飛び立った。


 ついにキュウビが見つかったか……


 しかしソフィスはどことなく不安そうな顔だった。説得する自信がないということだろうか。


 それとも、何か別の心配が……


 イリアは俺の隣に来て言う。


「あとはソフィスに任せましょう……私たちは」

「そうだな……門を築こう」


 どこか引っ掛かりを感じながらも、俺は作業を続けるのだった。

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