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231話 歓迎でした!?

 扉が開かれると、ぱんと何かが爆発するような音が響いた。


 俺も全く備えがなかったわけじゃない。扉の向こうに膨大な魔力を持つ魔王の反応を察知していた。


 だから魔法をいつでも展開できるようにしていたわけだが……


 開かれた扉の向こうには、水玉模様の筒をこちらに向ける魔王がいた。筒は円錐の形をしており、底は穴となっていた。


 穴からは小さな煙が上がり、紙のテープのようなものが飛び出している。


 新種の武器か何かと思ったが、それにしてはあまりにも見た目が弱々しいというか……


 イリアもきょとんとした顔をしている。鞘に手をかけていたが刀は抜いていないようだ。


 メルクたちも皆首を傾げているが、メッテだけは「わっ!」と心底驚くような声を上げた。


 ソフィスは真顔で周囲の黒い鎧たちと顔を見合わせる。それからメルクのような無表情な顔をこちらに向け、沈黙した。


 何ともいえない空気に包まれる俺たち。


 これは……歓迎の一種だろうか。


 火薬を用いた花火のようなものなのだろう。俺たちを驚かせようとしたのだ。


 しかし俺たちは思ったような反応を見せなかった……いや、メッテだけはお手本のような驚き方をしてくれたが。


 ソフィスはやがて耐えられなくなったのか、視線を床のほうに落とした。恥ずかしいという感情のようなものがあるのかもしれない。


 微妙な空気の中だったが、メッテが口を開いてくれた。


「お、驚いた……それは何なんだ?」

「……魔導具です。祝い事などで、祝福したい者を驚かせるのに使う……人間や亜人の方々はこういう祝福をすると聞きましたが」


 ソフィスはそう答えるが、メッテは首を傾げる。


「そんなのは聞いたことがない……」


 メッテが言うと、アスハとメルクも頷く。


 ソフィスはやってしまったと申し訳なさそう顔をした。


 俺はすかさずソフィスにこう言った。


「に、人間の中ではこういう祝福や歓迎の仕方がある……と聞いたことがある。ともかく歓迎してくれてありがとう、ソフィス」


 メルクもこんなことを呟く。


「これも子供は喜ぶ」


 ソフィスは少しほっとするような顔をして答える。


「そういうことでしたら、同じ物を持ってこさせます。ぜひ、持ち帰ってみてください」

「ありがたい。お土産にする。街を見てきたけど、他にも欲しいものがあった。作り方を教えてほしい」


 アスハが欲張りすぎですよとメルクを諫めるが、ソフィスは迷うことなく頷く。


「門ができたら、いくらでもお教えします。製法は知っていても作れない物も多いですから」


 俺に目を向けるソフィス。俺ならばそれも作れるかもしれないと期待してくれているのか。


 それからソフィスは「まずは召喚石を」と、大広間を歩いていった。


 大広間はやけに飾り付けが多かった。あちこちに置かれた飾られた木や、天井から落ちる垂れ幕。日常的に使う場所なら、邪魔になりそうだ。


 イリアもそれに気づいたのか、先を歩くソフィスに言う。


「……まさか、これを準備するために一足先に」

「はい……久々のお客様ですから」


 空回りしている感じが否めないが、魔王なりに俺たちを歓待してくれようとしたのだろう。


 街ではヴィリアンだけでなく人間の奴隷も多かった。しかし最低限の暮らしは保証されているようだった。


 人の絶滅を目指す魔王……と俺は聞かされてきたが、実態は異なるように思える。 


 それに街では綿飴の屋台もそうだったが、ソフィスを評価する人が多かった。


 もちろん魔王が寛容というよりは、このソフィスが特別なだけなのかもしれない。


 魔王としての人と戦う使命がなければ……ソフィスはもしかしたら人間と和解できそうな気もする。人間は人間で魔王軍と戦うのを使命と考えているから、なかなか難しいだろうが。


 ともかく、フェンデルからすればこのソフィスは信用して良さそうだ。


 やがて俺たちの目の前に、山のように積まれた木箱や樽が見えてくる。それが奥までずらりと続いている。


 ソフィスは足を止めると、振り返ってこう言った。


「我が魔王領にあるすべての召喚石を集めました。一部、建設予定地に直接運んだほうが早いものは別ですが」

「すごい量だ……これがあれば、きっと作れるだろう」


 俺が呟くと、メッテは少し心配そうな顔で呟く。


「だが、さすがにこの量は……」

「俺でもきついかもしれないな……」


 それならそれで飛行艇で行き来すればいい。


 そう思い俺は、召喚石の山に手をかざした。


「──なっ」


 メッテとアスハは声を上げた。一瞬にして召喚石が俺たちの前から消えたのだ。


 周囲にいた魔王軍の者たちもざわついている。


 イリアとメルクはできると信じていたのか、特に驚く様子もなかった。


 ソフィスは俺にこんなことを言った。


「誠に失礼ですが……これを回収できなければとても門は完成させられないと思っておりました」


 ソフィスの言う通り、これが吸収できないようでは門を造るのは難しいだろう。


 異界への門はとてつもなく大きな建築だ。ソフィスも生産魔法を使うから、魔法工房の大きさの重要性は分かっているのだ。


「ああ。だが、やはり俺一人で作るのには限界がある。フェンデルの皆の力を借りるが……ソフィス。生産魔法を使える君にも力を貸してほしい」

「当然です。微力ながら、お手伝いいたします……それに」


 ソフィスは何かを俺に言いかける。


「どうした?」

「いえ……やっぱり大丈夫です」


 メルクが我慢しなくていいと言うが、ソフィスは首を横に振る。


「それよりも、昼食にいたしましょうか」

「すでに美味しそうな匂いがするな……」


 メッテの言う通り、料理の匂いが大広間に漂っていた。


 そんな中、ソフィスが何かに気が付く。


 どうやら大広間に急ぎ入ってきた黒い鎧に気が付いたようだ。


「どうしました? 急用でなければ後に」

「失礼いたしました、魔王様。ですが、件の門とフェンデルにかかわることと思い、直接参上した次第です」


 黒い鎧の声に、ソフィスは俺と顔を合わせる。


「……分かりました。報告しなさい」

「はっ。人間の帝国より、先程書状が参りました」

「帝国の? 帝国の誰からです」

「それが……帝国皇帝からです」


 黒い鎧は、ソフィスに書状を差し出す。


 ……皇帝が直接、魔王に手紙を?


 キュウビに関係しているのだろうか。


 ソフィスは書状に目を通すと、俺に顔を向けた。


「……ヨシュア様。帝国の皇帝は……」

「何と言ってきたんだ?」

「私の以前の計画……それに協力したいと」

「皇帝、が自ら?」


 今の皇帝は人間の君主の中でも名君として知られている。


 そんな人物が自ら、たくさんの人間が死ぬ計画に賛同するだろうか?


 もちろん、皇帝にだって再会したい故人の一人や二人はいるだろうが……


 ソフィスはこくりと頷く。


「不可解ではあります……キュウビの洗脳を受けている可能性も捨てきれません。すでに私と会談するため足の速い騎兵隊だけを伴い、他の人間の軍勢より一足先に南へ向かっているようです。フェンデルより北に数日の距離にいるとか」


 キュウビが皇帝とその軍勢を魔王軍にただ突っ込ませる……その可能性もあるが。


 ソフィスはこう続けた。


「キュウビの支配を受けているなら、手始めにフェンデルを襲う可能性もあります……」

「そうだろうな。王国での俺たちの動きを聞いていれば、捕まっているヨモツの救出を考えるはずだ」


 イリアは俺に言う。


「備えは万全とはいえ、キュウビが相手では何が起こるか分かりません。食事は残念ですが、一刻も早くフェンデルに戻りましょう」


 その言葉に俺は頷く。


 ソフィスも今はそれどころではないと思っているのだろう。頷いてくれた。


「私も共に向かいます。私との会談を求めているなら、そこにキュウビも来るかもしれません……私が、キュウビに新たな計画について言って聞かせます」


 キュウビがそれを聞いたとして、俺たちを信用してくれるだろうか。魔王の言葉なら、もちろん耳を傾けてくれるとは思うが。


 とはいえ、まずは話してみるしかない。


「ああ……頼む。それじゃあフェンデルに向かおう」


 俺たちは急ぎ飛行艇に乗り込み、フェンデルへと帰還するのだった。

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