228話 魔王城にお呼ばれしました!
「すごい馬車の数」
メルクは南から山を上がってくる馬車を見て言った。
デビルゴートというヤギの魔物に牽かれた馬車が、何十台と列をなして山頂のこちらに向かってきていた。
モープのセレスが興奮した様子で言う。
「メッメー! デビルゴートっす! あいつら、うちらに似て、なかなかタフな奴らっすよ!!」
「でも、モープたちみたいに道草は食ってないぞ」
メッテがそう答えると、セレスはむすっと頬を膨らませた。
たしかにデビルゴートたちは真面目だ。鳴き声も出さず、道端の草を口にすることもない。
「役割の違いっす! やつらは毛はそんなに生えないけど、うちらは毛を沢山生やす必要があるっす! だから草をいつも食べる必要があるんっす! そんなこと言うと、メッテちゃんに服を着させないっすよ!」
「まあまあ……ですが、あの角、相当な大きさですね」
イリアの声に俺は頷く。
「魔族の馬車を牽くのに使役される魔物だ。一体で、人間の村を蹂躙できるほどの力を持っている」
その突進に、木造の平屋なら簡単に粉砕されてしまう。人間の兵が百人で盾を構え横隊を組んでも止められないだろう。
モープが弱いわけではないが、戦闘能力という面ではこのデビルゴートはやはり頭一つ抜けている。
そんな強力な魔物がぞろぞろとただ馬車を牽いているのから、なんとも異様な光景だ。
「魔王が来た」
メルクの声に空を見上げると、アスハに案内される魔王がいた。
魔王ソフィス……黒い鎧の美女は、今日はさらりとした紫色の長い髪を後ろで一本の三つ編みにしていた。
「来たな……うん?」
俺は思わず、魔王から全く目を離さないイリアに気が付く。
やはりというか警戒を解いてない……のだろうな。
そんなことを考えていると、魔王がすっと俺の前に降り立った。
魔王は軽く頭を下げると、足元に手を向ける。
するとそこには、十数本の樽が現れた。その中には、光を帯びた石が大量に詰められていた。
「申し訳ございません……空路で魔王城から運ばせているのですが、もう一度、陣に戻って」
「あと、どれぐらいかかりそうなんだ?」
メッテの声に、魔王は少し沈黙する。
「おそらく……あと一週間ほど」
魔王は近くの陣には召喚石を持ち込んではいなかった。そのため、魔王城からここまで運んでくる必要があるわけだ。
門を造るとは、夢にも思ってなかったことが窺える。
本当に俺たちに協力してくれることの裏返しだとは思うが。
メッテは頷いて答える。
「ま、まあ、急ぐことも……まだ人間の軍が来るまで、少なくとも三週間はかかると聞いている」
しかしメルクがぼそりと呟いた。
「ヨシュアが行ったほうが早いかも。ヨシュアなら一瞬で、魔法工房に入れられる」
イリアがすかさず口を開く。
「急に悪いかと」
「そんなことはございませんが」
魔王も間を置かずそう答えると、イリアは言葉に詰まる。
しかも魔王はこんなことも口にした。
「一度、皆様を魔王城に招待したいと思っておりました」
「お気持ちは嬉しいですが」
そう答えるイリア。やはり魔王城に行くのは危険と考えているのだろう。
だが、ここで俺が断れば魔王としても気持ちはよくないだろう。
一方でメルクは俺をじっと見つめる。信用に値するから大丈夫だということだろうか。
俺も魔王を信用し、共に異界への門を築くことに決めた。
「分かった……それじゃあ、俺たちが直接魔王城に召喚石を取りに行こう」
俺が、ではなく俺たちだ。飛行艇で向かう。
そう言ったからか、イリアも特に反対はしなかった。自分が一緒にいれば、俺や皆を守れるという自信があるのだ。
「ありがとうございます。それでは、魔王城までご案内いたします」
こうして俺たちは魔王と共に、魔王城へ向かうのだった。
 




