227話 門でした!?
宴会場の宮殿の一階部分。
そこの応接室で、俺は魔王とテーブルを挟んで向き合うように座っていた。
俺は魔王から門について話を聞かされた。
異界……死者の国がある世界への門について。
その門を作るには、やはり生き物の命が必要のようだ。
「門を開くのには最低でも十万の命が必要……そういうわけだな」
「一度開けば、あとは文字通り門として維持すればいいわけです。そのための鉱石も、すでに」
魔王はこくりと頷いた。
ミスリルなどの魔力を宿す鉱石を魔王は集めているようだ。
「つまりは、維持には魔力が必要というわけか」
「そうです。維持に関しては生命を捧げる必要がありません」
「とはいえ、やはり十万の命を捧げるのは……」
「ええ。諦めましょう」
きっぱりと答える魔王に、ヨモツはどこか申し訳なさそうな顔をする。
すると魔王は言う。
「ヨモツ……先ほどの私の剣が答えです。あなたはもう、私の何でもない。ただ、家族と仲間のために生きなさい」
殺そうとしたから、もう自分には気を遣うなということか。
だが、あのヨモツへの攻撃は本気とは思えなかった。裏切りが憎いなら、そもそも剣ではなく魔法で殺せばいい。
魔王は単にヨモツの肩の荷を下ろしたかっただけだ。
ヨモツもその魔王の意図を分かっているからか、涙を流す。
一言、「ありがとうございます」と答えると、深く頭を下げた。
メルクがぼそりと言う。
「魔王はもっとおっかないと思ってた」
「メルクさん、失礼ですよ」
アスハが慌てて答えるが、魔王は首を横に振る。
「ヨシュアさんたちには申し上げましたが、そう思わせるように内外で振る舞ってきましたから」
メッテは腕を組みながら訊ねる。
「しかしどうしてそんなことを? あなたのような考えの者がもっと正面に立てば」
「魔王としての使命があります。歴代の魔王がそうだったように」
この目の前の魔王ソフィスは特別だったというだけで、他の歴代の魔王はただ人間を滅ぼそうとする存在に過ぎなかったのだろう。
だが、ソフィスだけは別世界での記憶を持っていた。そのため、人間を滅ぼすことに集中できなかったというわけか。
メッテはそれを聞いて、何か言いたげな顔をした。しかしすぐに首を横に振って言う。
「ともかく、今は共に手を取ることになったわけだ。昔のことは忘れよう……とはいえ、今の計画を諦めたからといって、別世界へ行くのは諦めたわけじゃないんだろう?」
「はい……そしてそれは、ヨシュア様たちフェンデルの方々を借りれば、達成が可能だと。私には、豊富な資源があります」
そう答える魔王に、俺はすかさず言う。
「代用になりそうなもので考えられるとしたら……召喚石、か? しかし製法は」
「知られていません。ですが、すでにある召喚石を集めれば」
「門のようなものを作れるかもしれない、ってことか」
魔王はこくりと頷く。
「すでに、召喚石は三千個ほど集めております」
「そんなにあるのか!?」
ダンジョンの奥で俺たちもようやく一個手に入れたぐらいだ。
それだけあれば、門を作るのも簡単そうに思えるが……
「自分で作らなかったのか?」
「作れないのです。私の生産魔法や、魔物たちの魔法と腕では」
「なるほど……生産魔法が使えたんだな?」
「はい。ヨシュア様と比べれば、はるかに劣りますが。私では、召喚石を溶かすことはできません。ですが、あなたなら」
「やれるかも……しれないか」
ドワーフたちの技術もある。他の亜人たちの力も借りれば、きっと作れるはずだ。
飛行艇やイリアの刀を見て、魔王は俺たちの技術力を悟ったのだろう。
「分かった……もし、召喚石を提供してくれるなら俺たちで門を作ろう。だが」
「もし失敗しても協力関係を破棄することはありません……門も諦めるわけではありませんが、命を代価にすることはもうしません。といっても、私がこの世界にいる間だけの約束になりますが」
他の魔王に代替わりすれば、そこで終わりになる……というわけか。
「それでも十分だ……約束してくれるなら、一緒に門を作ろう」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
魔王はそう言うと、俺に手を差しだした。
「ああ……」
俺と魔王はそうして握手を交わした。
それから数日後、魔王は配下の黒い鎧たちと共に、召喚石を持ってやってくるのだった。




