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226話 二度目の試験でした!?

 俺たちは小型の飛行艇で宴会場を設けた山へ急行した。


 俺とイリア、メルク、アスハ、ヨモツ、ミリナがこの飛行艇には乗っている。


「いた……あれか」


 山に近付くにつれ、宮殿の付近に大量の黒い鎧がいるのが見えた。


 皆翼を生やしているが、一体だけ翼を生やしていない……魔王か。


 その魔王と鎧たちを囲うように、亜人たちが武器を構えている。ここの防衛を任せていたベルドスが魔王に向かって斧を構えている。


「とりあえずは互いに睨み合っているだけのようだな……皆、くれぐれも気を付けてくれ。特に、メルクはノワ族たちと一緒に」

「魔法で援護する。正面はイリアに任せる」


 メルクの声に、イリアは任せてくださいと首を縦に振った。


 アスハには空から見張ってもらおう。


 メッテは、もしものときのために村に残ってもらった。


 あとはヨモツとミリナがいるが、二人は戦闘できない。


 俺は飛行艇を地上に降ろすと、イリアたちと共に魔王の下へ向かう。


 魔王は兜を着けたままだった。そして……その手には剣が握られていた。


「ベルドス、ありがとう。だが」

「悪いが武器は下ろせない……こいつは油断していい相手ではない」


 ベルドスは斧を魔王に向けながら言った。


 イリアもまたいつの間にか刀を抜いている。


 魔王はこう答えた。


「構いません。今日は、そもそも戦いを覚悟で来たのです」


 しかし、すぐに俺と魔王の間にヨモツが割って入る。


「魔王様……畏れながら申し上げます」

「ヨモツ……」


 魔王は頭を下げるヨモツに顔を向ける。


「南方の都市の非戦闘員、および魔王軍でも非戦派の者たち……彼らの命だけは、どうかお救いいただけませんか? フェンデルの連中はそれを望んでいるのです……認めていただければ、私がヨシュアたちを引かせます」

「まさか、あなたがそのようなことを口にするとは……あなたはもう」


 魔王はヨモツの心境の変化を察したようだ。今のヨモツはもう子供が一番大事なのだと。


「今の私は子を持つただの親……魔王様に意見するなど、出過ぎた真似かもしれません……ただでさえ魔王様には何も告げず、キュウビと人間の国へ向かったのですから」

「より計画を確実なものとするため……そうだったのでしょう。ですが、そこまでしたあなたが何故、彼らフェンデルの者たちの思いを口にするのですか?」


 ヨモツははっきりと答える。


「ヨシュアたちと手を組めば……もしかすれば、魔王様の願いを」

「叶えるための別の道があると」

「はい。フェンデルの者たちは、計り知れない力を持っています」

「ヨモツ……あなたが言うのです。感情的なキュウビと違い、常に冷静だったあなたが。たしかに、そうなのかもしれませんね」

「魔王様……!」


 顔を上げるヨモツ。


 しかし、魔王はいつの間にか腕を振り上げていた。


 すぐに高い音が響いたと思うと、魔王の剣は──イリアの刀によって防がれていた。


「──ヨモツさん、下がって!」


 イリアはそう言うと刀の柄を両手で強く握り、魔王と鍔迫り合いになる。


 ヨモツは落ち着いた様子で口を開く。


「お前……」


 魔王もまた両手で剣を握りイリアを押し返そうとする。


「……そんな者が一人消えようが、あなたたちにはどうでもいいことでしょう?」

「ヨモツさんもその子供たちも、もう私たちフェンデルの仲間です……それを害そうとするなら──斬る!!」


 イリアの声が響くと、またすぐに金属のぶつかりあう音がかんかんと鳴る。


 とても目では追えないが、イリアと魔王は刀剣で打ち合っているようだった。


 他の黒い鎧たちは手を出そうとするが、魔王が手を振ると頭を下げ、その場から引いた。


 俺たちもイリアに加勢したかったが、二人の動きが速すぎて手を出せない。


 やがてイリアと魔王は、武器を構えたまま互いに距離を取った。


 イリアは魔王に鋭い視線を向けて問う。


「……これも試している、というやつですか?」


 魔王は手加減している……俺にもそう見えた。剣だけでなく、魔法も使えばいい。


 しかし魔王は首を横に振る。


「まさか……私が剣を振るったのは、今日が初めて。魔法を使う暇がないのですよ」

「初めて……これで初めてですか」


 イリアはぎゅっと強く柄を握った。


 魔王はそんなイリアに言う。


「あなたこそ、何故手加減したのです?」

「手加減ではありません。あなたを殺さないよう、全身全霊で戦ったのです」

「なるほど……だから」


 魔王は剣を下げた。

 と同時に、刃がばらばらと地面に崩れ落ちる。


「その刀を前には、ミスリルの剣も木の枝のようですね……」

「ヨシュア様が作られた刀です。私の体の一部……斬れないものはありません」


 イリアはそのまま刀の先を向けながら、魔王との距離をじりじりと詰めていく。


 さすがに黒い鎧たちも武器を構え、イリアの前に立ちはだかろうとした。


 しかし魔王が首を横に振ると、皆その場で武器を収める。


 魔王は俺たちに言った。


「あなたとの戦いは負けです……ですが、試してなかったといえば嘘になる」

「私たちを屈服させたいのなら、人質を取るなりすればいい話ですからね。それで、今度は何を試したのです?」


 イリアの問いに魔王は答える。


「あなたたちの力をです。あなたたちの力があれば、私は計画を諦めてもいいか……それが見たかった」

「それで、私たちはあなたから見てどうなのです?」


 魔王は兜を脱いで答える。


「どうか……力を貸していただきたい。フェンデル同盟の方々」


 俺はイリアや皆と顔を見合わせると、魔王に頷くのだった。

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