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225話 別世界でした!?

「キュウビが自分の母を連れて出ていったのは聞いた。その母は……」

「奴隷狩りによって人間の街に運ばれる際に殺された。俺にはミナを看取る時間があったが……キュウビには突然だった。鞭で殺されたと聞く」


 ヨモツは悲痛な面持ちで言った。


 俺はヨモツから、ヨモツとキュウビの過去を聞かされていた。

 イリアやメルクだけでなく、ミナをはじめヨモツの子も聞いている。


 聞いたことをまとめれば、キュウビとヨモツも狐人の里を去った後、人間によって捕まり奴隷となってしまった。そこでキュウビは母を亡くした。ヨモツも連れていかれた人の街で、妻のミナを亡くした。


 そんな中でキュウビとヨモツは同じ狐人ということもあり、同じ街で同じ仕事を任されていたようだ。


 だがある日、人の街にいた魔王が二人を見つけた。


 魔王は何故か、二人の呪紋を知っていたようだ。神官のように紋章を明らかにする魔法が使えるのだそうだ。


 魔王はようやく見つけたとばかりに、二人を召し抱えたのだ。二人の呪紋が目に留まったのだろう。


 俺はヨモツに訊ねる。


「しかし、どうして魔王は人の街に……?」

「俺はともかく、キュウビの呪紋は特別だ。魔王領には同じ力を持つ魔物はいない。そんな魔法もないのだ」

「だから、人の街を探したというわけだな」


 魔王が人間の街を訪れていた……意外な話だ。


 滅ぼそうとすれば人の街の一つや二つ、滅ぼせたはずだ。しかしそうしなかった……魔王には他の魔物が持つような人への恨みがないのだろうか。


 あるいは、それよりも大事なことがある、ということか。それはやはり、キュウビとヨモツも望むように……


「ヨモツ。魔王は……一体誰と会おうとしているんだ?」

「魔王様を生んだお方だ」

「つまり、親か?」


 俺の声に、ヨモツは少し考える。


「たしかに……親といえるのだろう。しかし本当に親なのか、俺たちにも……魔王様自身にもそれは分からない」

「どういうことだ?」

「魔王様はある日突然、そこに現れた。以前の魔王が朽ちるのと同時に」

「つまり……別の世界から来たと?」


 俺が召喚したデーモンロードのロネアのように、別の世界の住民という可能性がある。


 しかしヨモツはこう続ける。


「別に、これ自体はおかしくも何もない。魔王の代替わりとは、こういうものなのだ。だが、あの方は特別だった」

「特別?」

「別の世界での記憶が微かに残っていたのだ。おぼろげだが、親し気に話しかけてきた者を覚えているという」

「では、その者に会おうとして」

「それはもちろんそうだろう。だが、それ以上に、その者から掛けられたある言葉が魔王様の頭に残っているのだ」

「ある言葉?」

「門を開け……さすれば全てが一つになると」

「つまり……生者も死者も一つに」

「種族すらも、垣根がなくなるということだろう」


 こくりとヨモツは頷く。


「別の世界……少し待て。一度、ロネアに話を聞いてみよう」


 俺は、召喚石からデーモンロードのロネアを召喚した。


 翼を生やした美女……ロネアが片膝を突く。


「お呼びでしょうか、ヨシュア様」

「ロネア。聞きたいことがある……君のいる世界のことだ」

「残念ながら……この世界に召喚されている私は、元の世界の記憶を引き出せません。奉仕に必要な知識のみを持ち、ここにいます」

「なるほど……だが、以前、俺を魔王と呼んだのは? 何か意味があるのか?」


 俺が言うと、ヨモツは顔をしかめた。


「お前が、魔王だと?」

「ロネアは、以前俺を魔王と呼んだんだ。ただの首領という意味で、俺を魔王と呼んだのかなと思って」


 俺の声にロネアは首を横に振った。


「いえ、どなたでも魔王と呼ぶわけではありません……ですがヨシュア様、あなたは魔王と呼ぶべき方なのです」

「……根拠は?」

「今の私には、そう呼ぶべきだから、としか申し上げられません」


 ヨモツは目を瞑り考え込む。


「デーモンが召喚されること自体稀だ。しかも、召喚石で召喚された魔物は普通喋らない……」

「そうなのか?」

「ああ、そんなやつが魔王と呼ぶんだ。お前は確かに、向こうの世界では魔王と呼ばれる資格があるのだろう。そしてもしかしたら、その世界と死者の世界は」

「同じ世界の可能性がある……何か、魔王の代替わりと関係はありそうだな」

「そうだな。一方的だが、召喚石で呼び寄せられるのなら……門を開かずとも何か別の道もあるかもしれない」


 ミリナが言う。


「例えば……召喚石みたいのを作るとか?」

「いや、召喚石は作れない……そもそも召喚石はもともと自然にあったものと聞く」


 セレスもそう言っていた。魔王でも召喚石は作れないと。


「ヨモツ。製法が失われているわけじゃないのか?」

「そんなものあるわけがない……お前、まさか?」


 ヨモツの声に俺は頷く。


「製法を知ることができれば……魔王が何か情報を持っているかもしれない」

「知っている限りは答えてくれるだろう……だが現実問題、それは不可能のはずだ」


 たしかに、ヨモツの言う通りそんな物を作れるとは思えない……

 だが俺は生産魔法を使える。何かを作って解決できるならそうしたい。


 ヨモツはこう続ける。


「魔王様を説得するのは難しい……だが、南方の都市から戦士でない者を脱出させたり、魔王軍でも故郷に帰りたい者を帰させることはできるだろう。俺が説得できるとすれば、それぐらいだ」

「ヨモツ……ありがとう。では、それで魔王と掛け合ってみよう」


 ヨモツは深く頷いた。


 だがそんな時、アスハが大急ぎで家の扉を開いた。


「ヨシュア様! 魔王が宴会場に!!」

「魔王が?」


 俺たちは、宴会場のある山へと急行するのだった。

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