222話 圧倒的でした!?
殺気だった魔物たちが一斉にこちらへ迫る。
ここにいる者たちは魔王軍でも指折りの強者たち。オークにゴブリンに、ハーピー……数十種族以上の魔物たちが集まっていた。
手加減しろとはとても言えないが……
だが、俺たちは魔王に試されている。
力を見せるためにこいつらを殺すことが、魔王を満足させるとは思えない。
「イリア! 仕掛けるぞ!」
「はっ!!」
俺は手を魔物たちに向け、魔法工房から砂を放つ。
「目くらましだ!」
ハーピーの一体はそう叫び、すぐに翼で風を吹かせた。
砂を吹き飛ばすためだろう。さすがに対応が速い。
しかし、こちらは一瞬姿を隠せればいい。
俺は自分とイリアにハイドをかける。
「こざかしい! ──なっ!?」
突如姿を消した俺たちにハーピーや魔物たちは混乱する。
まず、イリアはハーピーに刀を振りつけた。
「っ!?」
ハーピーは振り返るも、玉座の近くへ吹き飛ばされる。
ばたんと倒れるハーピーに魔物たちは視線を向けた。
「そ、そっちか!!」
オークは斧を振り上げ、そちらへどかどかと走る。
「うぉおおおおおっ!! たかが人間ごときに俺らオークがっ!!」
「私は、亜人です」
イリアの声が小さく響くと、オークは後ろを振り返った。と同時に、オークは近くの天幕へ吹き飛ばされてしまう。
「な、な、どこだ! ぎゃっ!?」
「匂いでも分からん!」
ゴブリンのグリニアは嗅覚を頼りに見つけようとしたようだが、先程の砂には匂いの強い植物の粉末を混ぜている。
グリニアもまた、イリアによって倒されてしまった。
その後も次々と魔物たちはやられていく。だが、皆血は出ていない。イリアは峰打ちで皆を倒している。
しかしその中で、巨大な目玉の魔物──イービルアイの首領が体のどこからか言葉を発する。
「見える! でも、追えない!?」
イービルアイは魔力の動きを追えるらしい。
しかし、イリアがあまりの速さで動くからか、追うことができないようだ。
「なんだ……なんなんだ、この速さは!? っ!!」
すぐにイリアはイービルアイを峰打ちにしたようだ。
俺が見つかれば危険と判断し、先に倒したのだろう。
他にもイービルアイがいるが、首領のようには上手く魔力が追えないようで、俺のハイドを破ることはできなかった。
あらかた玉座の近くにいた者たちが倒れると、今度は周囲の側近たちをイリアは次々と倒していく。
だが次第に、周囲の天幕から大量の魔物たちが集まってきた。
「殺せ! 数で押せ! 囲めばいつかはぶち当たる!!」
「犠牲が出ても構わん! 種族の名誉にかけて、やつらを殺すんだ!!」
魔物たちはそう呟き、一斉に四方から押し寄せた。
そんな中、俺は火をつけた爆弾を空高く放り投げる。
「なんだ!? うっ!?」
魔物たちの頭上で爆弾は爆発し、どかんと大きな音が周囲に響いた。
当然、誰も死んではいない。魔物たちは一瞬驚いたが、足止めにもならない。
だが、これはただの合図だ。また、魔物たちの視線を空へ向けるための。
爆発で空を見上げた魔物が声を発した。
「お、おい……あれ、なんだ?」
魔物たちは皆、空にくぎ付けとなった。
空には巨大な……まるで要塞のような飛行艇が浮かんでいたからだ。
そんな中、俺はイリアにかけていたハイドを解く。
イリアは魔物たちに言う。
「あの船には、今爆発したものが満載されています。すぐにこの野営地を火の海にできるでしょう……降伏しなさい」
「ふ、ふざけるな! 誰がお前たち亜人どもに──ひっ!?」
斧を持ちイリアに立ち向かおうとしたオークは、イリアに睨まれその場で足を止めてしまう。
他の魔物たちもイリアの視線に、体を震わせる。
「な、なんでこんなやつに……」
「どうなのです!? 武器を下ろしなさい!!」
魔物たちはなんとか体を動かし戦おうとする。
しかしイリアの睨みの前では、一歩も動けなかった。
さすがにこの数では魔物たちも降伏しないか……
イリアははあと溜息を吐く。
「ならば、全員峰打ちにするしかありませんね……」
「その必要はございません」
その声に、俺もイリアも振り返る。
そこにいたのは、先程俺たちを案内した黒い鎧だった。
俺は姿を現し、黒い鎧に答える。
「現れたか」
「部下どもが粗相を」
「よく言う。あの玉座にいた魔王もどきは、お前の指示で動いていたんだろう?」
「いかにも……あなた方がどんな方々か、どうしても知りたかったのです」
「魔王が……では、魔王は」
「ここでは落ち着かないでしょう。どうか、こちらへ」
俺の問いに、黒い鎧は大きな天幕へと歩いていく。
すると魔物たちは、何があったと混乱するように周囲を見る。
頭上の飛行艇も忘れてしまったようだ。
魔物たちの首領も、困惑した様子だ。
魔物たちは俺たちが見えてない……それに今さっきのことを忘れている。
これはこの黒い鎧、あるいは魔王がやったのだろう。
黒い鎧……もしかしてこいつは。
俺はともかく飛行艇に手を振り、待機を命じた。
「どうぞ中へ……天幕の中ですべてお話します」
俺とイリアは顔を合わせると、そう呟く黒い鎧の後を追うのだった。




