221話 魔王でした!?
俺とイリアは周囲を警戒しつつも、まっすぐと巨大な天幕へと歩いていく。
やがて天幕の前に、魔物たちが多く集まっている場所を見つける。
腰掛けに座る魔物たち……あの魔物たちは各種族の王や長だろう。ゴブリンの王グリニアもいる。周囲は彼らの側近らしき者たちで囲まれていた。
そしてちょうど天幕の入り口の手前には台座が設けられ、玉座が置かれていた。
その玉座には仮面を付けた黒衣の者がいる。頭から一枚の黒衣を被った者だ。
……あれが、魔王なのか?
気が付けば、黒い鎧は消えている。
もうすでに、試されているというわけか。
俺はイリアと共に、魔王のいる玉座へと向かった。
すると先ほどまで無関心だった魔物たちが、急にこちらに気が付く。
「何故、ここに人間が……!?」
「誰がここまで侵入を許した!?」
魔物たちは驚き、声を上げはじめた。
そんな中、ゴブリンのグリニアがやはりこう言った。
「あいつら……フェンデルのやつらだ!!」
その声に俺ははっきりとした声で答える。
「俺たちはフェンデル同盟の代表としてやってきた!! 魔王と交渉をしたい!」
だが、魔物たちは警戒を解かない。
「人間ごときが魔王様と交渉だと!? 馬鹿にするでない!」
「やれ!! こいつらはビッシュの頭の仇だ!!」
オークを中心に、俺たちへ恨みの声を上げる。
案の定、魔物たちは武器を構え、魔法を手に宿し、こちらへ駆け寄る。
しかしそんな中、玉座の者が声を上げた。
「待て……」
「魔王様……」
魔物たちは玉座の魔王に振り返り、その場で足を止めた。
魔王は俺たちに仮面を向け続ける。
「交渉? 我らと停戦したいという交渉か?」
「そうだ。話はそれだけじゃないが、まずは俺たちフェンデル同盟と魔王軍との間で停戦協定を結びたい」
「亜人と我らが同盟……くっ……ふ、ふははははっ!!」
魔王は突然、笑い声を響かせた。
「何故、お前たちのような雑種と我らが対等な立場で交渉しなければならない。お前たちに残された道は、我らへの従属のみだ」
俺が昔から思い浮かべていた傲慢な魔王……そいつが、ここにいた。
だがあまりに想像通り……本当に、こいつが魔王なのか?
魔王は片手を上げる。
「まずはこの二人を血祭りに上げ、フェンデル同盟を平らげよう。やれっ──っ!?」
魔王が手を振り下げると同時に、その眼前には刀を抜いたイリアが迫っていた。
魔王の喉元にはイリアの刀の切先が突き付けられる。
「動かないでください……動けば、あなたの首は落ちます」
「き、貴様……」
この場にいる誰もが動けなかった。
イリアは一瞬で魔王に接近したのだ。
「──っ!?」
しかしイリアは何かに気が付いたのか、急に魔王から刀を離す。
「あなたは……!?」
すぐさまイリアは魔王に刀を振るった。
「魔王様!?」
魔物たちはあわてるが、それは魔王が斬られたからではない。
魔王は、その場で布と仮面だけになってしまったのだ。
「ま、魔王様が……」
「何故……」
言葉を失う魔物たち。
ここにいた魔王は魔王ではなかった、そういうことだろうか。
そんな中、トロールの首領らしき男が声を上げる。
「けっ……小娘のやりそうなことだ! いねえならいねえでいい! まずは、この人間をぶちのめして好き放題やるぞ!!」
その声に、周囲の魔物たちも声を上げ、
俺たちを囲んだ。




